令和2年2月4日
ビジネス法務エグゼクティブ
(ビジネス実務法務検定1級)
特定行政書士 安平 一樹
下記に引用するニュースを企業法務の専門家である当職が解説します。
なお、本稿掲載の法律や内容、参考文献は執筆時点におけるものとなります。
さて、日本経済新聞電子版の「社長報酬『見える化』で増額?改正会社法に別の目玉」という記事を紹介します。
日経新聞の記事はこちら
では、当該記事に登場する法律知識を解説していきます。
1 改正会社法
最初に、令和元年「12月に成立した改正会社法で社外取締役の設置が義務付けられ」たと記事にありますが、これは会社法327条の2の改正に係るものなので新旧の条文を引用して説明します。
まずは現行法です。ここでは単に会社法とします。
会社法第327条の二
事業年度の末日において監査役会設置会社(公開会社であり、かつ、大会社であるものに限る。)であって金融商品取引法第二十四条第一項の規定によりその発行する株式について有価証券報告書を内閣総理大臣に提出しなければならないものが社外取締役を置いていない場合には、取締役は、当該事業年度に関する定時株主総会において、社外取締役を置くことが相当でない理由を説明しなければならない。
次に改正法を示します。ここでは改正会社法とします。
改正会社法第327条の二(改正法)
監査役会設置会社(公開会社であり、かつ、大会社であるものに限る。)であって金融商品取引法第二十四条第一項の規定によりその発行する株式について有価証券報告書を内閣総理大臣に提出しなければならないものは、社外取締役を置かなければならない。
改正のポイントは、「公開会社であり、かつ、大会社である監査役会設置会社」につき、現行法では社外取締役を置かないことも認められ、その場合には定時株主総会で説明をすることが求められますが、改正法では社外取締役の設置が義務づけられるという点です。
その趣旨は、社外取締役の設置を義務づけることで、会社の実権を握る代表取締役その他取締役等の役員や親会社等に対するチェック機能をさらに強化することにあると考えられます。そのことから、記事では社外取締役のチェック機能と関連して、「透明な役員報酬の決め方」に言及しています。
つづいて、より理解を正確にするために、社外取締役や、「公開会社であり、かつ、大会社である監査役会設置会社」の定義を条文に基づき確認します。
まずは、社外取締役です。条文の定義は複雑なので後で簡単にまとめます。
株式会社の取締役であって、次に掲げる要件のいずれにも該当するものをいう。
イ 当該株式会社又はその子会社の業務執行取締役(株式会社の第三百六十三条第一項各号に掲げる取締役及び当該株式会社の業務を執行したその他の取締役をいう。以下同じ。)若しくは執行役又は支配人その他の使用人(以下「業務執行取締役等」という。)でなく、かつ、その就任の前十年間当該株式会社又はその子会社の業務執行取締役等であったことがないこと。
ロ その就任の前十年内のいずれかの時において当該株式会社又はその子会社の取締役、会計参与(会計参与が法人であるときは、その職務を行うべき社員)又は監査役であったことがある者(業務執行取締役等であったことがあるものを除く。)にあっては、当該取締役、会計参与又は監査役への就任の前十年間当該株式会社又はその子会社の業務執行取締役等であったことがないこと。
ハ 当該株式会社の親会社等(自然人であるものに限る。)又は親会社等の取締役若しくは執行役若しくは支配人その他の使用人でないこと。
ニ 当該株式会社の親会社等の子会社等(当該株式会社及びその子会社を除く。)の業務執行取締役等でないこと。
ホ 当該株式会社の取締役若しくは執行役若しくは支配人その他の重要な使用人又は親会社等(自然人であるものに限る。)の配偶者又は二等親内の親族でないこと。
社外取締役の経営陣に対する監督機能を担保するため、条文で細かく要件が設定されており読みにくいですが、簡単にいえば、その株式会社の取締役でありながら、当該会社の業務を執行せず、さらに一定の利害関係もない者と整理できます。つまり、会社の経営陣とは異なる第三者的な立場で監督できる者が社外取締役にふさわしいということです。
では、この社外取締役を設置しなければならない「公開会社であり、かつ、大会社である監査役会設置会社」の定義を明確にするために順に確認します。
監査役会を置く株式会社又はこの法律の規定により監査役会を置かなければならない株式会社をいう。
つまり、監査役会設置会社とは、株式会社が任意または法定の義務により監査役会を置いた会社です。
なお、監査役会は監査役で組織されており(会社法390条)、監査役は取締役の職務の執行を監査することが役目です(会社法381条1項)。
その発行する全部又は一部の株式の内容として譲渡による当該株式の取得について株式会社の承認を要する旨の定款の定めを設けていない株式会社をいう。
つまり、公開会社とは、その会社の全株式を自由に譲渡できる株式会社です。
次に掲げる要件のいずれかに該当する株式会社をいう。
イ 最終事業年度に係る貸借対照表(第四百三十九条前段に規定する場合にあっては、同条の規定により定時株主総会に報告された貸借対照表をいい、株式会社の成立後最初の定時株主総会までの間においては、第四百三十五条第一項の貸借対照表をいう。ロにおいて同じ。)に資本金として計上した額が五億円以上であること。
ロ 最終事業年度に係る貸借対照表の負債の部に計上した額の合計額が二百億円以上であること。
つまり、大会社とは、最終事業年度に係る貸借対照表に、①資本金が5億円以上で計上されているか、②負債の部の合計額が200億円以上で計上されている株式会社です。
よって、「公開会社であり、かつ、大会社である監査役会設置会社」とは、監査役会を設置しており、その会社の全株式を自由に譲渡できる一定の資産要件を満たした株式会社、具体的には上場会社をイメージするとわかりやすいです。
たとえば、会社法327条の二が「金融商品取引法第二十四条第一項の規定によりその発行する株式について有価証券報告書を内閣総理大臣に提出しなければならないもの」として、社外取締役を設置すべき会社の要件を付加していますが、金融商品取引法24条1項1号は、「金融商品取引所に上場されている有価証券」の発行者である会社(上場会社)を挙げています。
以上より結論をまとめると、上場会社等の一定の株式会社は、改正会社法により、社外取締役の設置義務が課されるということとなります。
なお、当該社外取締役の設置義務の規定は、改正会社法の交付の日から起算して1年6月を超えない範囲内において政令で定める日から施行されます(附則1条本文)。そして、この改正会社法は令和元年12月4日に成立し、同年12月11日に公布されていますので、その交付日から起算して、1年6か月を超えない範囲内で施行されることとなります。
よって、現在はまだ改正前会社法327条の二(現行法)が適用されます。
2 役員報酬
次に、「多くの日本企業は役員報酬の決定を『代表取締役に一任』して」いるという記事内容につき、解説します。
まず、株式会社の役員報酬についての規定を確認します。
会社法第361条第1項
取締役の報酬、賞与その他の職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益(以下この章において「報酬等」という。)についての次に掲げる事項は、定款に当該事項を定めていないときは、株主総会の決議によって定める。
1号 報酬等のうち額が確定しているものについては、その額
2号 報酬等のうち額が確定していないものについては、その具体的な算定方法
3号 報酬等のうち金銭でないものについては、その具体的な内容
ここでは、会社法361条1項1号の「報酬額が確定しているもの」を基に解
説します。
まず、各取締役につき、その報酬額を月額や年額で定めることとなりますが、実務上は取締役全員の報酬総額の最高限度のみを株主総会で定めて、その範囲内で、取締役ごとの報酬額の決定を取締役会に一任することが多いです。判例もこの取扱いを適法としています(最判昭和60年3月26日判時1159号150頁)。
そして、一度株主総会で役員報酬の限度額を決定すれば、限度額を変更しない限り、再度の株主総会決議は要しないので、実務上は、各取締役の報酬額の決定を株主総会で一任された取締役会が、さらに代表取締役に取締役ごとの報酬額の決定を再一任します。また、判例はこの取扱いも適法としています(最判昭和31年10月5日集民23号409頁、最判昭和58年2月22日判時1076号140頁)(1)。
このことから、多くの日本企業が代表取締役に役員報酬の決定を一任しているという、記事に示された結論が導かれます。
3 指名委員会等設置会社
次に、そうした状況で、「指名委員会等設置会社」が記事で紹介されていることの意味を解説します。
まず、指名委員会等設置会社の定義を確認します。
指名委員会、監査委員会及び報酬委員会(以下「指名委員会等」という。)を置く株式会社をいう。
次に、各委員会の権限を確認します。
指名委員会と監査委員会は、括弧内が読みにくい場合は飛ばして読めば理解できます。
会社法第404条
1項 指名委員会は、株主総会に提出する取締役(会計参与設置会社にあっては、取締役及び会計参与)の選任及び解任に関する議案の内容を決定する。
2項 監査委員会は、次に掲げる職務を行う。
1号 執行役等(執行役及び取締役をいい、会計参与設置会社にあっては、執行役、取締役及び会計参与をいう。以下この節において同じ。)の職務の執行の監査及び監査報告の作成
2号 株主総会に提出する会計監査人の選任及び解任並びに会計監査人を再任しないことに関する議案の内容の決定
3項 報酬委員会は、第三百六十一条第一項並びに第三百七十九条第一項及び第二項の規定にかかわらず、執行役等の個人別の報酬等の内容を決定する。執行役が指名委員会等設置会社の支配人その他の使用人を兼ねているときは、当該支配人その他の使用人の報酬等の内容についても、同様とする。
4項 省略
報酬委員会については、さきほど引用した会社法361条1項の取締役の報酬の規定や、会社法379条1項及び2項の会計参与の報酬の規定にかかわらず、執行役等(執行役及び取締役、さらに会計参与設置会社は会計参与も)の個人別の報酬を決定するといった内容です。
つまり、取締役や執行役、会計参与の個人別の報酬を報酬委員会が決定できるということです。
そして、指名委員会・監査委員会・報酬委員会の各委員については、次のとおり定められています。
会社法第400条
1項 指名委員会、監査委員会又は報酬委員会の各委員会(以下この条、次条及び第九百十一条第三項第二十三号ロにおいて単に「各委員会」という。)は、委員三人以上で組織する。
2項 各委員会の委員は、取締役の中から、取締役会の決議によって選定する。
3項 各委員会の委員の過半数は、社外取締役でなければならない。
4項 省略
ここで重要なポイントは、各委員の過半数は社外取締役でなければならないということです。これは、指名委員会等設置会社には現行法でも社外取締役の設置が義務づけられていることを意味します。
つまり、指名委員会等設置会社には、取締役等の報酬を決定できる報酬委員会が設置され、さらにその報酬委員会は取締役3名以上で構成され、その過半数を社外取締役にしなければならないので、役員報酬の透明性や公正化が期待でき、「社長の『お手盛り』はしにくくなる」という記事内容に結びつきます。
4 社外取締役の活用
以上に解説した社外取締役の役割に着目した記事として、日本経済新聞電子版の「社外取締役、候補者増えても偏る人気 兼務が急増」を紹介します。
日経新聞の記事はこちら
ここでは、会社法等に社外取締役を複数の会社で兼務することを規制する規定がないことや、それによって生じる問題、社外取締役の現状と課題が紹介されています。
企業法務において、今後の社外取締役の活用と役割、その動向が注目されます。
<参考文献>
(1)会社法[第2版](東京大学出版会) 田中 亘