更新:同年6月14日
ビジネス法務エグゼクティブ
(ビジネス実務法務検定1級)
特定行政書士 安平 一樹
一時支援金における事前確認、業務と併行して取り組むことは大変ではありましたがやってよかったと思います。
引き続き最後まで一時支援金の事前確認を実施し、月次支援金も同様に事業者の方に寄り添って頑張ります。
さて、当初から一貫して無料で行ってきた事前確認ですが、私の知る限り、有料で事前確認を行う士業が圧倒的に多数です(士業も事業者なのだから当然です)。
そこで、なぜ私が事前確認を無料で行うことにしたのか、その経緯や理由を以下に記します。
登録確認機関となった経緯
当事務所の顧問先には、一時支援金の給付要件を満たす企業がいなかったことから、当初は登録確認機関となるつもりはありませんでした。
その頃はまだ、事前確認がこんなにも受けづらい状況になるなど知る由もなく、「自分がやる必要はないかな」程度に考えていました。2021年3月初旬の話です。
すると、私が設立手続を代理した会社の社長から連絡があり、一時支援金申請をするので事前確認を頼みたい旨の申し出がありましたので、その要請を受けて登録確認機関となる申請を2021年3月中旬にしました。
申請から登録確認機関となるまで約2週間程度かかり、その間に申請希望者が「事前確認を受けられない」・「高額な手数料を請求された」等のニュースを閲覧し、この問題が深刻であることを理解しました。
3月の終わり頃にようやく登録確認機関となり、事前確認を依頼されていた社長に連絡し、「うちが設立した会社なので無料でやる」旨を伝えました。
社長は報酬を支払うつもりでいてくれたのですが、私が受けた事前確認の相談はその時点では他になかったので、「この1件を無料でやって終わりかな」程度に考えていました(あとは持続化給付金申請を当事務所が代行した方など)。
これが、私が登録確認機関となった等身大の経緯です。
事前確認を無料で行うことにした理由①
ところが、登録確認機関となってすぐに、事前確認を依頼する電話が鳴りました。正直、驚きました。
話を聴くと、地元に事前確認を受けられる登録確認機関がなく、一時支援金事務局に紹介されたということで当事務所に電話をしたそうです。
料金について聴かれたのでどうしようか悩んだものの、ひとまず「無料です」と答えました。
また、その際に必要書類や手続きについてもかなり詳しく質問を受けました。
しかし、その時点では登録直後であったため、まだ先の社長の事前確認の日も決まっておらず、私は事前確認のマニュアルを読み込む時間をつくれていなかったので、「実は最近登録確認機関となったばかりでマニュアルを読み込めていないので、明日、また連絡します」と伝えました。仕事で外出しなければならず、事務所に戻るのは夜遅い時間となってしまうため、すぐに連絡する時間的余裕がなかったのです。
この私の対応に不安を覚えたのか、その方から翌日に「知り合いの税理士にお願いする」ということでキャンセルの連絡がありました。
「申し訳ないことをしたな」と思いつつ、すぐにその方の「一時支援金事務局から紹介された」というフレーズが頭をよぎりました。
つまり、今後も連続して事前確認に関する問い合わせが「一時支援金事務局からの紹介」というかたちであるのではないかという予感がしたのです。
そのことから、私はすぐに事前確認のマニュアルを読み込みました。
そして、確認事項が多くて細かい上に、具体的なケースにおける対応に関し、不明な点が多数あること(登録確認機関の裁量と責任が大きいこと)を理解しました。
「これはとても無料でやれるものじゃない」というのが正直な感想でした。
そして予感は的中し、翌日も一時支援金事務局からの紹介で事前確認に関する問い合わせの電話がありました。
報酬について確認されたので、「正直なところ、無料から5千円の間でどうすべきか悩んでいます。最大でも5千円が妥当とは考えていますが、できれば無料にしたい気持ちがあるので、それが難しくても5千円より安くしたいと思います。」と答えると、その方は「事業者なのだから有料なのは当たり前で、5千円でも良心的な値段です」と言ってくれました。
私は登録確認機関であっても、行政機関ではなく行政書士。それを何も言わずに理解してくれたのは、同じ事業者だからこそと感じました。
こうして、登録確認機関となった後すぐに、2日連続で一時支援金事務局経由での事前確認依頼の電話があり、これは今後も続くことが想定されました。
経営者としては、1件5,500円(税込)を受領し、その分、補助金申請のプロである行政書士として、単なる登録確認機関としての業務以上のものを提供すれば、双方にとって良いことのように思えました。
しかも、そこまでの責任を負って時間を割く場合には、1件5,500円でも利益は出ないので「支援事業」としての役割も果たせると考えました。
理屈ではそう理解したのですが、口から出た言葉は「無料でやります」でした。
私にとっては、事前確認を無料で受けられる人とそうでない人がいて、その区別に正当な理由がないことが許せなかったのです。
それは、行政書士としての業務提供を付加価値とすることによっても正当化されませんでした。
なぜなら、事前確認は必ず受けなければならないものであり、そこに「選択の自由」がないからです。
こうして、事前確認を無料で実施するという結論が固まりました。
事前確認無料の理由②
また、よく事前確認の制度を見てみると、この問題は当然起こりうる現象であることがわかりました(その原因を私が解説した記事として、一時支援金における「事前確認」の問題点の解説があります)。
「一事が万事」という言葉どおり、一つの行動により普段、どのように仕事をしているのかがはっきりとわかります。
この一時支援金における事前確認の態度一つにも、仕事に対する考え方や姿勢が表れます。
ならば、私はここで私が自身のクライアントに選ばれている理由を示そう、このような事態だからこそ、私のクライアントではなくても皆を私のクライアントだと思って取り組もうと考えました。
よって、やるからには単に登録確認機関としてではなく行政書士としてできることも行い全力を尽くす。
それはたとえ無料であっても変わらない。
私の事前確認に関する方針はこうして誕生しました。
なお、私が事前確認を担当した方には、「今回のようにいつ不測の事態が起こるかわからないので、もし何か困ることがあったら思い出してください」と告げて、当事務所の「初回相談無料」特典付のチラシを渡していますが、それは以上の考え方に基づくものであり、もういろいろと電話をして嫌な思いをする必要はないという気遣いです。
それを単なる営業行為と捉えた方はほとんどいなかったと感じています。
つまり、困ったときは今回と同じく有料・無料に係わらず真摯に相談を受けて回答する、依頼するかどうかは「選択の自由」に基づいて判断してくれればよいという私の考えが、何も言わずとも伝わったわけです。
行政書士のキャッチコピーは「頼れる街の法律家」ですので、それを知ってもらえる良い機会となればと考えています。
事前確認無料の理由③
理由①・②は行政書士としての道を切り開いてきた自分の考えに基づいていますが、理由③はもっと根源的なことにあります。
まず、当然のことですが、私が行政書士でなければ登録確認機関となることはできませんでした。
つまり、行政書士は登録確認機関となることで困窮する事業者を救済する力を持っているわけです。
そして、その権限を手に取ったならば、人のために正しく使わなければならないと考えました。
行政書士になったばかりの頃の私なら、その考えに基づき、間違いなく登録確認機関となり同じ行動をしたことでしょう。
しかし、今の私に迷いがなかったかといえば嘘になります。
開業したばかりの頃、志は高くとも仕事はそうなく小さな事務所で1人でやっていた頃の自分ならば、登録確認機関となり事前確認を無料で実施することに負荷はなく、事業者に貢献できる機会として取り組んだことでしょう(1受給者につき1,000円の手当付)。
一方、今の自分は千葉県庁の近くに広い事務所を借りて3名を雇用し、多くのクライアントを持つ立場となり、事務所の経営・職員の生活、顧客の利益を守りながら、多数の事前確認を無料で背負うことは相当の覚悟が必要なものでした。
けれども、開業当初であればやったはずであることを今できないのはおかしい、初心を忘れてはならないという気持ちで決断するに至りました。
さらに、これまではホームページ等での宣伝にはほとんど力を入れてきませんでしたが、登録確認機関が見つけられずに困っているという方のために、ホームページ更新とSNSも用いて可能な限り、当事務所の事前確認を知ってもらえるように努力しました。
誰一人として断らないという信念
当初は、自身の事務所がある千葉市を中心に千葉県内を守れば役割を果たせるものと考え、当事務所での面談形式の事前確認のみを実施し、ご来所いただけるのであれば、千葉県外からも事前確認を受け付ける対応をしていました。
よって、4月中は申請期限に余裕があることも相まって、20件程度の事前確認を穏やかな時間の流れで実施することができました。
その中で、Zoomを利用したオンライン形式の要望が相当数あったこともあり、4月末から予約を開始して5月からはオンライン形式も採用し広く全国から受け付けることにしました。
すると、5月の連休明けから面談の事前確認予約も急増する一方で、オンライン形式の予約が関東を中心に関西や福岡等からも入り、5月のみで約200件の事前確認を実施しました。その中で、夜間や土日の要望もあったことや、対応時間を増やさないと事前確認を受けきれないこともあり、営業時間外(18時~22時過ぎ・土日)も開放することで、「1件の事前確認依頼も断らない」という信念を貫きました。5月は例えるなら、急患の絶えない救急医療の現場のようでした。
また、どんなに依頼が殺到しても、必要書類の案内から事前確認の実施まで、すべてに気を遣い細やかに対応しました。
事前確認後、本申請で不明な点があったり不備が出た場合の対処も、一般的な内容である限り、すべて無料でサポートしました。
こうして、面談・オンライン双方の事前確認を、電話やメールの問い合わせから個別に対処して、事前確認本番では申請希望者が安心して受けられるよう話し方や会話内容への心配りを忘れずに実施し、事後のサポートも含め無料でやり遂げました。
一時支援金における事前確認件数は全案件が「全部確認」でしたが、上記の内容で計270件を担当しました(5月のみで196件)。
最終日の6月11日(金)は当日予約にも対応し、一時支援金事務局からの駆け込み紹介も含め、1件も断ることなく受け切りました(その中に難案件も2件ありましたが、行政書士としてのスキルを活かして一時支援金事務局と理由を提示し粘り強く交渉し、無事に事前確認を終えることができました)。
月次支援金について
月次支援金では、緊急事態宣言・まん延防止等重点措置実施都道府県が一時支援金よりも増えるため、新たに対象措置実施都道府県内となった地域を所在地とする事業者の方々も、事前確認というハードルにぶつかるであろうことが予測されます。
引き続き、月次支援金についても面談・オンライン双方で全国の事業者を支援できればと考えています。