令和2年9月28日
特定行政書士 安平 一樹

令和2年9月16日、日本の新たな内閣総理大臣に菅義偉氏が就任し、他の国務大臣も任命され、菅内閣が発足しました。

そして、当然のことながら、この一連の手続は法律に規定がありそれに則って行われています。そこで、その根拠となる法律を確認しながら解説します。

まず、日本経済新聞電子版「認証式を終え菅内閣が発足」(2020年9月16日)の記事を引用します。
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ここでは、「皇居」において、首相親任式と閣僚認証式を終え、菅内閣が正式に発足したとありますので、その手続の理由を説明します。

憲法67条【内閣総理大臣の指名、衆議院の優越】
1項 内閣総理大臣は、国会議員の中から国会の議決で、これを指名する。この指名は、他のすべての案件に先だって、これを行ふ。
2項 衆議院と参議院が異なった指名の議決をした場合に、法律の定めるところにより、両議院の協議会を開いても意見が一致しないとき、又は衆議院が指名の議決をした後、国会休会中の期間を除いて十日以内に、参議院が、指名の議決をしないときは、衆議院の議決を国会の議決とする。

憲法67条1項により、菅氏は国会の議決で内閣総理大臣に「指名」されたこととなります(第202臨時国会の衆参両議院による内閣総理大臣指名選挙で指名されました。)。ここでは指名にとどまり、任命されたわけではありません。
なお、菅氏は衆議院・参議院ともに過半数の議決を獲得したので(衆議院462票中314票、参議院244票中142票)、憲法67条2項の問題とはなりませんでした。仮に内閣総理大臣の指名につき、参議院の過半数の議決を獲得できなかったときで、衆参両議院の協議会を開いても意見が一致しない場合は、憲法67条2項が定める「衆議院の優越」により、衆議院の議決をもって国会の決議が成立することとなり、衆議院の議決で菅氏を内閣総理大臣に指名することができます。

そして、この憲法67条1項による指名に基づいて、天皇が内閣総理大臣を任命します(憲法6条1項)。

憲法6条【天皇の任命権】
1項 天皇は、国会の指名に基いて、内閣総理大臣を任命する。
2項 省略

よって、内閣総理大臣(首相)となるためには国会の指名に基づき、天皇の任命を受ける必要があります。

では、他の国務大臣(閣僚)の任命はどうでしょうか。

この点、国務大臣は、内閣総理大臣によって任命されます(憲法68条)。

憲法68条【国務大臣の任命及び罷免】
1項 内閣総理大臣は、国務大臣を任命する。但し、その過半数は、国会議員の中から選ばれなければならない。
2項 省略

よって、国会の指名に基づき、皇居にて天皇より内閣総理大臣に任命され、正式に内閣総理大臣となった菅総理は、その権限に基づき国務大臣を任命することができます。もっとも、内閣総理大臣が国務大臣を任命した後、国務大臣は天皇による認証を受ける必要があります(憲法7条5号)。

憲法7条【天皇の国事行為】
天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行ふ。
5号 国務大臣及び法律の定めるその他の官吏の任免並びに全権委任状及び大使及び公使の信任状を認証すること。
1~4号・6~10号省略

こうして、国務大臣の任命を天皇が認証する閣僚認証式が設けられているのです。

以上より、内閣総理大臣は天皇の任命を、国務大臣は天皇の認証を受ける必要があるので、「皇居」において首相親任式及び閣僚認証式が行われていると考えられます。

なお、内閣は、内閣総理大臣(首相)と国務大臣(閣僚)で構成される合議体を意味します(憲法66条1項、内閣法2条1項)。

憲法66条【内閣の組織、国会に対する連帯責任】
1項 内閣は、法律の定めるところにより、その首長たる内閣総理大臣及びその他の国務大臣でこれを組織する。
2項・3項 省略

内閣法2条【組織、国務大臣の数】
1項 内閣は、国会の指名に基づいて任命された首長たる内閣総理大臣及び内閣総理大臣により任命された国務大臣をもって、これを組織する。
2項 前項の国務大臣の数は、十四人以内とする。ただし、特別に必要がある場合においては、三人を限度にその数を増加し、十七人以内とすることができる。

よって、令和2年9月16日に菅内閣総理大臣と他の国務大臣(閣僚)が任命されることで、同日にそれらで構成される合議体である「菅内閣」が発足しました。

そして、菅内閣の閣僚は20人おり、日本経済新聞電子版「新閣僚ってどんな人?菅内閣20人の横顔」(2020年9月17日)で紹介されています。
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ところで、内閣法2条2項では、国務大臣の数は原則14人までとされ、特別に必要がある場合には、17人まで任命できるとされていますが、菅内閣は20人の国務大臣を任命しています。
これは、内閣法附則第4項による復興庁が廃止されるまでの間の例外的措置となります。

内閣法附則第4項
復興庁が廃止されるまでの間における第二条第二項の規定の適用については、前二項の規定にかかわらず、同条第二項中「十四人」とあるのは「十七人」と、同項ただし書中「十七人」とあるのは「二十人」とする。

この内閣法附則第4項に出てくる「第二条第二項の規定」が、さきほど引用した内閣法2条2項のことであり、内閣法で定められた国務大臣数の上限である原則14人までが17人以内に、特別に必要がある場合における17人までが20人以内に修正されています。

よって、この規定に基づき、菅内閣は閣僚20人を任命しています。

以上が、菅内閣発足に関する行政手続の法務解説となります。
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