令和2年3月2日
特定行政書士 安平 一樹

 新型肺炎(新型コロナウイルス)に関するいじめニュースを引用し、学校法務の専門家である当職が法律上の解説を行います。

はじめに、千葉日報オンラインの下記の記事「小中いじめ5件 鴨川市、新型肺炎感染者入院で調査」(2020年2月5日)を紹介します。
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まず、いじめの定義を確認します。

(定義)
いじめ防止対策推進法第2条

第1項 この法律において「いじめ」とは、児童等に対して、当該児童等が在籍する学校に在籍している等当該児童等と一定の人的関係にある他の児童等が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む。)であって、当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているものをいう。
第2項 この法律において「学校」とは、学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)第一条に規定する小学校、中学校、高等学校、中等教育学校及び特別支援学校(幼稚部を除く。)をいう。
第3項 この法律において「児童等」とは、学校に在籍する児童又は生徒をいう。
第4項 この法律において「保護者」とは、親権を行う者(親権を行う者のないときは、未成年後見人)をいう。

本条では、第2~第4項で学校、児童等、保護者の定義を確認していますが、いじめの定義は第1項にあり、簡略すると、学校に在籍する生徒が、他の生徒が行う「心理的又は物理的な影響を与える行為」により、「心身の苦痛を感じているもの」とされています。
よって、「コロナにかかっている。」とからかわれた場合に、その心理的な影響を与える行為の対象となった子は精神的に苦痛を感じるのが通常ですから、その態様が「からかい」であってもいじめに該当します。

次に、コロナウイルスに関するいじめが、学校内のアンケートにより発見されていますが、当該アンケートの法的根拠を確認します。

(いじめの早期発見のための措置)
いじめ防止対策推進法第16条第1項

学校の設置者及びその設置する学校は、当該学校におけるいじめを早期に発見するため、当該学校に在籍する児童等に対する定期的な調査その他の必要な措置を講ずるものとする。

本条で示されている「定期的な調査」に、学校での生徒に対するいじめに関するアンケートが該当します。
また、いじめ防止対策推進法の解釈を具体化するものとして下記の附帯決議が出されています。

いじめ防止対策推進法案に対する附帯決議
(平成25年6月20日 参議院文教科学委員会)

五、いじめの実態把握を行うに当たっては、必要に応じて質問票の使用や聴取り調査を行うこと等により、早期かつ効果的に発見できるよう留意すること。

ここでも、いじめの実態把握を行うため質問票の使用が挙げられており、新型コロナウイルスを原因としたいじめ実態把握の手段として、アンケート調査が活かされた本件に関係しています。

さらに、以下にも学校での生徒に対するいじめアンケートの法的根拠が示されています。

(いじめ防止基本方針)
いじめ防止対策推進法第11条

第1項 文部科学大臣は、関係行政機関の長と連携協力して、いじめの防止等のための対策を総合的かつ効果的に推進するための基本的な方針(以下「いじめ防止基本方針」という。)を定めるものとする。
第2項 いじめ防止基本方針においては、次に掲げる事項を定めるものとする。
1号 いじめの防止等のための対策の基本的な方向に関する事項
2号 いじめの防止等のための対策の内容に関する事項
3号 その他いじめの防止等のための対策に関する重要事項

本条の規定に基づき「いじめの防止等のための基本的な方針」(平成25年10月11日文部科学大臣決定(最終改定 平成29年3月14日))が定められています。
そして、当該いじめ防止等のための基本的な方針においても、いじめの早期発見のための措置として、「定期的なアンケート調査」が示されています。

つまり、学校で行われているいじめに関するアンケートは、生徒をいじめから守るために法律で定められた措置となります。

次に、千葉日報オンラインの下記の記事「肺炎いじめ防止を 児童生徒に文書配布 千葉県教委」(2020年2月6日)を紹介します。
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ここでは新たに千葉県教育委員会がいじめ防止を訴える文書を作成し、千葉県内の公立学校の生徒に配布したことや、先生や保護者への相談を促し、相談窓口として「24時間子供SOSダイヤル」を案内していることが紹介されています。

まず、いじめ防止を訴える文書の法的根拠を考えます。

(学校におけるいじめの防止)
いじめ防止対策推進法第15条第2項

学校の設置者及びその設置する学校は、当該学校におけるいじめを防止するため、当該学校に在籍する児童等の保護者、地域住民その他の関係者との連携を図りつつ、いじめの防止に資する活動であって当該学校に在籍する児童等が自主的に行うものに対する支援、当該学校に在籍する児童等及びその保護者並びに当該学校の教職員に対するいじめを防止することの重要性に関する理解を深めるための啓発その他必要な措置を講ずるものとする。

本条項に規定されている「いじめを防止することの重要性に関する理解を深めるための啓発その他必要な措置を講ずるもの」に、いじめ防止のための文書は該当すると考えられます。

次に、いじめに関する先生や保護者への相談や、いじめ相談窓口についての法的根拠を確認します。

(いじめの早期発見のための措置)
いじめ防止対策推進法第16条

第2項 国及び地方公共団体は、いじめに関する通報及び相談を受け付けるための体制の整備に必要な施策を講ずるものとする。
第3項 学校の設置者及びその設置する学校は、当該学校に在籍する児童等及びその保護者並びに当該学校の教職員がいじめに係る相談を行うことができる体制(次項において「相談体制」という。)を整備するものとする。
第4項 学校の設置者及びその設置する学校は、相談体制を整備するに当たっては、家庭、地域社会等との連携の下、いじめを受けた児童等の教育を受ける権利その他の権利利益が擁護されるよう配慮するものとする。

本条2項により、いじめ相談窓口が設置されています。また、本条3項・4項により、いじめに関し学校の教職員の相談体制が整備され、それは家庭等との連携により行われるものであることが示されており、本件における先生や保護者への相談を促すことへとつながっています。

なお、次に示すとおり、学校や教職員及び保護者は、子どもをいじめから守るために取り組む責務が定められています。

まずは、学校や教職員の負う責務を確認します。

(学校及び学校の教職員の責務)
いじめ防止対策推進法第8条

学校及び学校の教職員は、基本理念にのっとり、当該学校に在籍する児童等の保護者、地域住民、児童相談所その他の関係者との連携を図りつつ、学校全体でいじめの防止及び早期発見に取り組むとともに、当該学校に在籍する児童等がいじめを受けていると思われるときは、適切かつ迅速にこれに対処する責務を有する。

本条で示されている「基本理念」とは下記のとおりです。

(基本理念)
いじめ防止対策推進法第3条

第1項 いじめの防止等のための対策は、いじめが全ての児童等に関係する問題であることに鑑み、児童等が安心して学習その他の活動に取り組むことができるよう、学校の内外を問わずいじめが行われなくなるようにすることを旨として行われなければならない。
第2項 いじめの防止等のための対策は、全ての児童等がいじめを行わず、及び他の児童等に対して行われるいじめを認識しながらこれを放置することがないようにするため、いじめが児童等の心身に及ぼす影響その他のいじめの問題に関する児童等の理解を深めることを旨として行われなければならない。
第3項 いじめの防止等のための方策は、いじめを受けた児童等の生命及び心身を保護することが特に重要であることを認識しつつ、国、地方公共団体、学校、地域住民、家庭その他の関係者の連携の下、いじめの問題を克服することを目指して行われなければならない。

次に、保護者の負う責務を確認します。

(保護者の責務等)
いじめ防止対策推進法第9条

第1項 保護者は、子の教育について第一義的責任を有するものであって、その保護する児童等がいじめを行うことのないよう、当該児童等に対し、規範意識を養うための指導その他の必要な指導を行うよう努めるものとする。
第2項 保護者は、その保護する児童等がいじめを受けた場合には、適切に当該児童等をいじめから保護するものとする。
第3項 保護者は、国、地方公共団体、学校の設置者及びその設置する学校が講ずるいじめの防止等のための措置に協力するよう努めるものとする。
第4項 第一項の規定は、家庭教育の自主性が尊重されるべきことに変更を加えるものと解してはならず、また、前三項の規定は、いじめの防止等に関する学校の設置者及びその設置する学校の責任を軽減するものと解してはならない。

そして、当然のことながら、生徒がいじめを行うことは法律上禁止されています。

(いじめの禁止)
いじめ防止対策推進法第4条

児童等は、いじめを行ってはならない。

そして、本件でいじめの原因となった新型コロナウイルスにつき次の法律も示します。

(国民の責務)
感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律第4条

国民は、感染症に関する正しい知識を持ち、その予防に必要な注意を払うよう努めるとともに、感染症の患者等の人権が損なわれることがないようにしなければならない。

以上に紹介したいじめ防止対策推進法等の法律の規定や趣旨より、学校の教職員も保護者も、そして生徒も、新型コロナウイルスを理由として、学校内で児童等の人権が損なわれるおそれのある言動や、いじめに該当し得る行為がなされないように注意をしなければならず、仮にいじめが発生した場合には、早期に適切な対応をすることが求められます。
また、国や地方公共団体、地域住民等の理解と協力も必要となります。

なお、本日(令和2年3月2日)から新型コロナウイルスの感染拡大防止策として、政府が打ち出した小中高校と特別支援学校等の臨時休校が実施されています。
朝日新聞デジタル「小中高など、きょうから臨時休校へ 延期や見送る学校も」(2020年3月2日)を紹介します。
朝日新聞の記事はこちら

臨時休校を実施する学校も、休み明けのいじめ防止対応が重要となるでしょう。
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