ビジネス法務エグゼクティブ
(ビジネス実務法務検定1級)
特定行政書士 安平 一樹
2021年4月1日から、消費税込の総額表示が義務化されます。
具体的には、1,000円の商品であれば1,000円(税別)ではなく、1,100円(税込)や1,100円、あるいは1,000円(税込1,100円)と表記する必要があります。
これは、本来は消費者の観点から総額表示が好ましいものの、経過措置としての特別措置法により、2021年3月末までは総額表示をしなくてもよい特例が認められており、その期間が経過することによります。
総額表示の対象は、店頭やチラシ、ホームページ等のウェブサイト、スマートフォンアプリなど、消費者が目にするすべての価格表示となります。
このニュースに関し、日本経済新聞電子版の記事を紹介します。
日本経済新聞電子版「『198円+税』4月から違法に 総額表示に備えよう」(2021年2月22日)
総額表示義務に反すれば違法となりますが罰則はなく、財務省主税局の担当者によると、当該義務違反に対しては「所轄の税務署から行政指導することもあり得る。」との見解が示されています(上記記事参照)。
行政指導とは、行政手続法2条6号にその定義が規定されています。
行政手続法第2条6号 行政指導
行政機関がその任務又は所掌事務の範囲内において一定の行政目的を実現するため特定の者に一定の作為又は不作為を求める指導、勧告、助言その他の行為であって処分に該当しないものをいう。
ここでのポイントは、行政指導を行う行政機関はその任務又は所掌事務の範囲内である必要があり、総額表示は消費税に関することなので、財務省主税局担当者発言のとおり、所轄の税務署が行政指導を行う行政機関となります。
そして、その行政指導の目的は消費者の誤認防止にあり、その実現のために総額表示義務への対処を求める指導、勧告、助言等が所轄税務署によりなされることとなります。
なお、行政指導は「処分に該当しないもの」である必要がありますが、判例は「行政庁の処分」につき、「公権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうち、その行為によって、直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められているもの」としています(最判昭和39年10月29日[民集18巻8号1809頁])。
また、行政指導の一般原則が行政手続法32条で定められています。
行政手続法第32条
1項 行政指導にあっては、行政指導に携わる者は、いやしくも当該行政機関の任務又は所掌事務の範囲を逸脱してはならないこと及び行政指導の内容があくまでも相手方の任意の協力によってのみ実現されるものであることに留意しなければならない。
2項 行政指導に携わる者は、その相手方が行政指導に従わなかったことを理由として、不利益な取扱いをしてはならない。
つまり、行政指導は対象者の同意を得た任意のかたちで行われるものであり、対象者が行政指導に従わず総額表示をしない場合であっても、行政庁が対象者に不利益となる取扱いをすることはできません。
もっとも、総額表示義務に違反し続ければ、消費者の信頼を失いかねませんので、事業者は真摯に対応することが求められます。
最後に、総額表示の実施に関連した外食産業のニュースとして、日経ビジネスの記事を紹介します。
日経ビジネス「モスは値上げ、回転ずしは『110円』に 総額表示におびえる外食」(2021年3月15日)
消費者側も、税込表記と値上げを区別して認識することが重要と考えられます。