令和2年11月16日
特定行政書士 安平 一樹

まず、朝日新聞デジタル「ネット中傷、訴訟しなくても投稿者を開示 総務省が検討」(2020年11月12日)を紹介します。
朝日新聞の記事はこちら

ここでは、時間を要する訴訟を経なくても裁判所の判断により、事業者に対し投稿者を開示させる手続きが創設される見込みであることが示されています。

現状、事業者(サイト管理者)に対し投稿者の開示を求める裁判外の手続きとして、プロバイダ責任制限法4条に基づく「発信者情報開示請求」があります。
これは、事業者に対し任意で投稿者の開示を求める手続きですが、開示請求が認められるかどうかの回答に1か月程度を要することが多いとされ、開示に関する基準も判例に基づくガイドラインが存在するものの、事業者には投稿者を開示してよいかの判断が難しい(できない)こともあります。

この時間的問題及び「事業者には判断が難しい」を解決することが、新制度の意義であると考えられます。

なお、プロバイダ責任制限法4条による発信者情報開示請求については、書式やガイドラインが下記サイトで公開されています(当該請求は行政書士が業として行え、当職もその経験があります。)。
http://www.isplaw.jp/

ところで、紹介記事の中に、裁判所による訴訟を経ない投稿者開示は「表現の自由を脅かしかねないとの懸念もある」との指摘がなされていますので、表現の自由について補足説明します。
表現の自由は憲法21条により保障されています。

憲法21条
1項 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
2項 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。

ネット上の投稿者情報を開示することは、憲法21条2項の保障する「通信の秘密」を侵害する可能性がありますが、表現の自由を確保するための通信の秘密も無制約に認められるものではありません。
よって、ネット上の投稿が他人の権利を侵害する場合、投稿者の情報を開示する決定を裁判所が新制度により行っても表現の自由が脅かされたとはいえませんが、表現の自由を保障するため、当該投稿内容の権利侵害性が、通信の秘密を制約してでも投稿者情報の開示をすべき程度に至っているか、その判断基準を被害者救済の観点も含めて定立することが重要となってきます。

つまり、迅速な手続きでありながら、ネットにおける投稿への表現の自由を尊重しつつ、ネット上の誹謗中傷等の被害者救済を図るための制度として確立しなければならない点において議論を要すると考えられます。

さて、誹謗中傷や名誉棄損、なりすまし等、ネットトラブルに関する当事務所の業務案内は下記記事を参照ください。
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