令和3年4月20日
ビジネス法務エグゼクティブ
(ビジネス実務法務検定1級)
特定行政書士 安平 一樹

一時支援金における事前確認の問題提起

2021年1月に発令された緊急事態宣言の影響で売上が50%以上減少した個人事業主・中小企業のための「一時支援金」では、申請前に登録確認機関による「事前確認」が必要となります。

これは、不正な申請を防止するために、実際に事業を行っている者かどうかや、一時支援金の給付対象を正しく理解しているかを申請前に審査することが目的で、前回の持続化給付金ではなかった制度(持続化給付金での不正受給問題により創設された制度)です。

そして、その事前確認を行う登録確認機関は、経済産業省・中小企業庁からの協力要請に基づき、一定の機関(商工会や金融機関等)や行政書士、税理士等で登録申請し、適格性が認められ登録された者がなることとなっています。

この事前確認につき、申請希望者が①事前確認を受けられない、②事前確認で高額な手数料を請求されるという問題が生じていますので、以下にその問題点を様々な立場や原因にも言及して解説します。

登録確認機関の確認とその位置づけ

まず、登録確認機関となれる者を確認します。

①認定経営革新等支援機関(中小企業等経営強化法に基づき認定を受けた、税理士、公認会計
士、弁護士、中小企業診断士、行政書士、地域の支援センター、よろず支援拠点の実施機
関、民間コンサルティング会社等)
②認定経営革新等支援機関に準ずる個別法に基づき設置された機関
・商工会及び商工会連合会
・商工会議所
・農業協同組合及び農業協同組合連合会
・漁業協同組合及び漁業協同組合連合会
・預金取扱金融機関
・都道府県中小企業団体中央会
③その他個別法に基づく士業関連機関・者等
・税理士
・税理士法人
・公認会計士 ・中小企業診断士
・監査法人
・行政書士
・行政書士法人
・青色申告会連合会
・青色申告会

上記登録確認機関対象者は、中小企業庁作成の緊急事態宣言の影響緩和に係る一時支援金における事前確認への協力依頼に基づき、その記載どおりに引用しています。
ここでは、「認定経営革新等支援機関」の説明は省き(①は省略)、一般の方からの視点に基づき順序立てると、まずは②商工会や商工会議所、金融機関等が事前確認を無料で行ってくれる第一の機関であり、それを補うものとして、③税理士・行政書士等の事務所が位置づけられているといえます。

問題の具体例

しかし、実際に一時支援金申請手続きが開始すると、商工会や商工会議所の中には会員のみを対象に受け付ける制限を設けているところがあり(地域により異なります)、金融機関は貸付等の取引がある者に限定しているようで、申請希望者が第一の機関で事前確認を受けられないという問題が生じました。
そこで、第一の機関を補うものとして、税理士や行政書士等に事業者が事前確認を依頼すると、高額な手数料を請求されるという問題が起きました。

この問題を端的に表したニュースとして、朝日新聞デジタル 「手数料が高い」批判受け…一時支援金、手続きを見直し(2021年3月25日)があります。
上記記事では、「商工会や金融機関などでは、国が1件当たり1千円の手数料を負担し、原則無料となるところが多い。税理士や行政書士の事務所などでは、申請者から手数料をとるところもある。商工会や金融機関などのなかには、個人事業者らの事前確認を受け付けていないところもあり、税理士や行政書士に頼まざるを得ないケースがめだっていた」ことが指摘され、実例として、「京都市でエステサロンを経営する50代女性は税理士事務所から、税込み手数料は個人事業主1万1千円、法人2万2千円だと示された。ほかにも、手数料として支給額の1割ほどを設定するところもあるとされる」ことが挙げられています。

また、東京新聞「コロナ一時金 申請書類事前確認に高額手数料 税理士、給付の10パーセント超要求」(2021年3月20日)でも、「観光案内を営む個人事業主の男性(69)」は、「商工会や信用金庫にも依頼したが、取引がないなどの理由で断られた」ため、「書類の事前確認を頼んだ横浜市内の税理士事務所に給付額の10%を超える手数料を要求され」、その金額は5万円であり「国が算定した手数料の50倍に上るため、別の行政書士に5000円でお願いした」ケースが紹介されています。
その男性は、「立場が弱い個人事業主が多額の中抜きをされやすい」と指摘していますが、事前確認を受けなければ一時支援金申請できず、特に事前確認を受けづらい個人事業主の弱い立場を表したものと評価できます。

今回の一時支援金では個人事業主30万円・法人60万円が上限となりますし、それより低い給付額となる方もいる中で、事前確認に数万円を要求することは、一時支援金の趣旨に反するものと考えます。

実際に、当職も税理士事務所のホームページで事前確認1件5万円(税別)、行政書士事務所で1件3万円(税別)を提示していたものを閲覧したことがありますし、当事務所にも商工会等の会員でなければ事前確認を受けられないと断られ、税理士に5万円(税別)、行政書士に1~3万円(税別)と言われたという相談者が多くいらしています。
なお、上記記事にある「行政書士に5,000円でお願いした」というケースについては、事前確認に関して妥当な範囲の金額(上限)であると解します(理由は後述)。

問題の所在

では、なぜこのような問題が生じたのでしょうか。

まず、事前確認に対する手数料の仕組みから解説する必要があります。

本件では、原則として、一時支援金事務局から事前確認1件につき、1,000円(税込)の事務手数料が登録確認機関に対し、支払われることとなっています。
その理由として、さきほど紹介した東京新聞「コロナ一時金 申請書類事前確認に高額手数料 税理士、給付の10パーセント超要求」(2021年3月20日)でも、「中小企業庁は事前確認について『複雑なチェックは必要ない』として、申請者が税理士らに支払う1件当たりの手数料を1000円と算定。国が負担する仕組みも導入した。一方、この1000円を受け取らなければ、確認機関が手数料を自由に取ることも認めた。税理士などの調査方法や料金体系が一律でなく、『1000円』で縛るのが難しいため」であることが紹介されています。

しかし、この原則論には、新聞記事では紹介されていない非常に大きな問題があります。

なぜなら、既出の緊急事態宣言の影響緩和に係る一時支援金における事前確認への協力依頼(中小企業庁)「4.事務手数料について」には、登録確認機関が事前確認を行った者のうち、支援金の受給に至った者が30件以上である場合には、事務手数料として1件につき1,000円(税込)が後日、一時支援金事務局から支払われることが記載されています。
つまり、事前確認数が30件を超さなければ無報酬、30件を超しても受給者数が30者を超えなければ無報酬で、実質的に無償での協力要請に近いです。そして、この厳しい条件をクリアしても手当が支払われるのは、一時支援金の期間が満了し、要件を満たした合計が確認されてから半年以内となるようで、かなり後になるわけです。

さらに、1件につき1,000円(税込)という手数料設定も極めて不当です。
というのも、事前確認はかなりの手間と時間を要する内容となっているからです(下記マニュアル参照)。

一時支援金に関する事前確認マニュアル(中小企業庁)

ここでは、事前確認につき、①税理士や行政書士等の「顧問先」である場合は、事業性が確認でき決算書類も閲覧しているため簡略化された「一部確認」のみでよいこととなっていますが(1件につき数分で完了し、電話による確認でもよい内容)、そうでない事業者は「全部確認」が求められ、この全部確認には面談またはテレビ会議を要し、電話での必要書類の案内も含め、1件につき30分~1時間程度を要します。
つまり、中小企業庁のいうように、「複雑なチェックは必要ない」としても、「全部確認」においてはチェックすべき書類及び事項が多いため、短時間で済ますことができません(たとえば、請求書・領収証と預金通帳の振込み名義・金額が一致しているかの確認等)。
よって、一部確認ならば事務手数料1,000円でなんら問題ありませんが、全部確認まで一律で事務手数料1,000円とされている点は極めて不合理です(登録確認機関は事前確認後、その完了報告をオンラインで行いますが、そこでは実施した事前確認が「一部確認」か「全部確認」かを入力する必要があり、中小企業庁はその件数を簡易かつ正確に把握できるにも係わらず、一律1,000円となっています)。

そして、事前確認を受けられない状態となっている事業者は皆、この全部確認を要する方々です。

この点、行政書士等の相談料の相場が30分5,500円(税込)とすると、30分以上の時間と労力を提供して1件1,000円を受領できるかもわからない仕組みは、行政書士等にとって事業を維持する上で、非常に酷な設定となっています(無報酬となる場合も酷ですし、事務所の事業規模にもよりますが30件以上をこなす場合も損失が増え続けて酷)。
そして、この事務手数料の受取りを辞退すれば、事前確認を受ける者から報酬を受けることが可能となるため、税理士・行政書士事務所では申請希望者から報酬を取ることがあり、中には高額な報酬を請求するケースも起きてしまいました。
一時支援金の趣旨を踏まえれば、行政書士等の事前確認の報酬額は、通常の相談料を参考としてそれより抑え、1件につき5,500円(税込)が「上限」であると考えられます。それより高額の報酬額を設定する場合は、一時支援金における事前確認を「支援事業」ではなく「純然たる事業」として捉えて登録確認機関となった士業であり、考え方の相違に基づくと解します。

また、上記マニュアルは、行政書士等の顧問先のほか、登録確認機関の「自らの団体の会員」や「事業性融資先」は「一部確認」でよいとしています。
この点が、すでに紹介した事前確認の対象者を「商工会や商工会議所によっては会員に限定しているところもある」・金融機関は「貸付等の取引がある者に限定している」という理由と結びつきます。
すなわち、商工会等はその会員であれば、金融機関は貸付等の事業性融資先であれば、「一部確認」のみで事前確認を完了できるのです。

すでに述べたように、事前確認において、「全部確認」をするにはかなりの時間を要します。
その時間を商工会等の団体や金融機関が割いた場合、通常の業務に支障が出ることが想定され、また、それによる職員の残業が生じても、1件1,000円の事務手数料では残業代を補填するには至りません。

整理すると、国が負担する事務手数料は全部確認・一部確認を一律で1,000円としており、一部確認ならば1,000円で利益が出ますが、全部確認は相当の損失を出します。
そのことから、登録確認機関は事前確認の対象者を一部確認のみでよい団体の会員・事業性融資先・顧問先に絞る現象が生じており、不特定多数から全部確認を受けることを前提にする登録確認機関の中には、事務手数料の受け取りを辞退し、営利的な報酬額を請求することがあります。

よって、今回の一時支援金に関する事前確認の問題である、申請希望者が①事前確認を受けられない、②事前確認で高額な報酬を請求されたという事態は、事前確認の仕組みに起因し生じていると解します。

問題への対処

以上の整理から、一時支援金の事前確認についてはその制度上、誰が痛みを負担するのかという問題に帰結します。
申請希望者が負担するのか、商工会等や金融機関が負担するのか、行政書士等が負担するのか。

この問題を受けて、一時支援金事務局で無料で事前確認を受けられるようにすることが決まりましたが、当初よりも国の負担を増やす行動も本稿執筆時点では現実的な解決に至っていません。

そして、中小企業庁からの重要なお知らせでは、「国から事務手数料(1,000円/件)をお支払いする機関では、事前確認の手数料は無料です。約9割の方が無料で事前確認を受けております。」との案内がなされていますが、当該サイトが公表する本稿執筆時点における事前確認の合計約33,250件のうち、士業等が約20,100件で約3分の2を担当していることがわかります(令和3年4月19日までのデータ)。

事前確認に関する重要なお知らせ(中小企業庁)

仮に中小企業庁の公表どおり、約9割の方が無料で事前確認を受けられたとするならば、行政書士等が痛みを負担し、役割を果たしたことが伺えます(もちろん、自身の顧問先のために登録確認機関となり、顧問先のみ「一部確認」を無料で実施したという件数も相当数あるとは思います。なお、士業は大多数が有料で事前確認を行っていることから、「仮に」という留保を付しています。)。
ニュースでは、税理士等が高額な手数料を請求したことばかりが記事となりますが、この点を見落としてはいけません。

なお、我々士業者が痛みを負担し無料で事前確認を行う理由は、無料で事前確認を受けられる事業者とそうでない者が生じてしまう制度における「不公平感」を解消し、苦境に立たされる事業者を救済することにあるといえます。
これは、一時支援金の申請手続きのように、申請者自身で行うか行政書士に依頼するかを選べる「選択の自由」があるものでは生じない問題と考えられます。

行政書士 安平法務事務所の取組み

当事務所においても、当初から一貫し、事前確認を無料で行ってきました。

そして、上記中小企業庁からの「重要なお知らせ」でも、「※無料で事前確認を行っている登録確認機関におかれては、その旨を積極的に広報していただくようお願い申し上げます。」との依頼を受けています。
その委嘱に基づき、当事務所のホームページやSNSを用いて、無料で事前確認を行う旨をお知らせしてきました。

詳しくは、下記記事をご参照ください。
当事務所の「事前確認」(無料)の紹介

また、当職は市民法務研究会(千葉県行政書士会千葉支部公認の千葉県行政書士会会員で構成される研究団体)の代表をしており、当研究会内で、登録確認機関となった会員へのアンケートを実施することで、研究会を挙げての「協力体制」を構築しています。
仮に当事務所で事前確認を受けきれない件数に達しても、「無料」で事前確認を行える行政書士を紹介できます。
千葉県千葉市にある当事務所にも、南は千葉県南房総市・館山市、北は埼玉県、西は神奈川県からも事前確認の申込みがありますので、それだけ切迫した問題であると深刻に受け止めています。

この状況下で、少しでも事業者の方々への助力となれば幸いです。

「情報の空」に関する指針