2022年4月15日
ビジネス法務エグゼクティブ
(ビジネス実務法務検定1級)
特定行政書士 安平 一樹

本連載について

本投稿は、事業復活支援金申請をするにあたり注意すべき事項として、「不備ループ」に特化した解説を連載で行い、最終的にはその内容に具体的検討を加筆したものを電子書籍化するためのものです。
書籍出版前に内容の一定割合を公開することは、コロナ禍に困窮する事業者に救済の手が行き渡るようにするためであり、かつ、書籍の執筆・出版が遅延した際にも事業復活支援金の申請に間に合うよう情報提供を可能な限り行うことをねらいとしています。
また、申請期限の関係で火急の執筆となり、誤植があったとしても原則として修正せず書き進めていきますので、より正確な内容を求める方は電子書籍を参照ください。
なお、本連載及び本書は申請者を基準としつつ、登録確認機関や申請代行を業とする行政書士をも対象とした高度な内容まで平易に記述するため、それらを読んだ申請者は、本書等を未読の行政書士や登録確認機関よりも不備ループ対応力が身につくと考えます。

電子書籍の執筆及びその内容を無料公開することの目的につき、詳細は下記記事を参照ください。
【電子書籍の予告】事業復活支援金申請の注意点~不備ループに陥らないために~

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さて、連載5回目からは不備ループが生じる原因について検討し解説します。
原因がわかってこそ問題への対処ができるからです。

不備ループが生じる原因 社会的背景

コロナ禍に困窮する事業者を救済するために実施された支援金のうち、経済産業省が実施したものを時系列に整理すると、①持続化給付金、②家賃支援給付金、③一時支援金、④月次支援金とあり、今回の⑤事業復活支援金も同様となります。

このうち、①持続化給付金は迅速に事業者を救済するため、簡易な手続きで個人100万円・法人200万円(上限)を給付するものであったことから、多くの事業者を救った一方で不正な申請が相次いだとされています。
また、②家賃支援給付金についても不正受給が生じ、①持続化給付金、②家賃支援給付金において、同給付金を実施する経済産業省に所属するキャリア官僚が架空の事業による申請をして給付金を詐取するという詐欺事件も起きました。
日本経済新聞電子版「元経産官僚に実刑判決、1人は猶予付き有罪 給付金詐欺」(2021年12月21日)

こうした事件の影響で、③一時支援金からは「事前確認」という事前審査が導入され、申請とは別に事業性や給付要件の形式的理解を確認する手続きが設けられました。
この事前確認は申請希望者に相当の負担を課すものではありましたが、不正な申請を防ぐ一定の効果があったとされます。
朝日新聞デジタル「コロナ給付金、不正受給は9億円超 返還拒めば名前や所在地の公表も」(2021年12月21日)

よって、月次支援金・事業復活支援金でも事前確認手続きが改良されながら維持されています。

これらを整理すると、経済産業省・中小企業庁及び事務局(以下、「経済産業省等」とする。)としては、事業者の支援と同程度に「不正な申請を通すわけにはいかない」という意図が強く働かざるを得ない状態といえます。

それは「報道特集」(TBSテレビ 2021年7月3日放送)で、経済産業省大臣が厳しく追及を受けている姿が放映されていることからもわかります(開始4分頃からの映像)。

上記で紹介した記事に着目すると、給付金の「不正な申請」・「不正受給」は大手メディアも取り上げていることがわかります。

では、真正な事業者をも振り落とす「不備ループ」についてはどうでしょうか。
報道特集では不備ループについて報道していますが(開始6分頃からの映像)、大手新聞社の記事では不備ループを取り上げたものは見当たりません。
そのため、当サイトでも全商連の新聞記事を紹介しています。
全国商工新聞「事業復活支援金 「不備ループ繰り返すな」 公正審査と再審手続きを 全商連が中企庁に要請」(2021年12月20日)

これは、給付金の不正受給事件に関する報道はテレビで視聴したことのある方が多いはずですが、「不備ループ」についてはニュースでみたことがないという方が多いであろうという現実にも表れています。

つまり、大手メディアは事業者という特定の範囲に起きている不備ループ問題よりも、支援金の不正受給(犯罪)という社会全体の関心事を優先して報道する傾向にあると考えられます。
そのため、経済産業省等としても、不備ループにより支援金を受け取れない事業者が生じてしまうことを問題として認識しつつも、不正受給を防ぐことに対する社会全体からの圧力を強く受けざるを得ない立場にあると解します。

その葛藤が、上記で引用した報道特集での経済産業省大臣の答弁からもうかがえると思います。

よって、一時支援金からすでに問題となっていた不備ループは、月次支援金ではさらに解消することが困難となる方向に変化していきました。
おそらく事前確認を導入した一時支援金以降においても不正な申請が一定数あり、その対応として不備ループが強化されていったのではないかと予測されます。

以上を踏まえると、社会全体の受け止め方としても、支援金の不正受給という犯罪行為の結果、支援の手が届かなくなった事業者がいることを関連させて認識することが重要と考えます。

また、申請者もこうした状況を認識し、申請者自身も自らが受給資格を有すること(事業を行っており、新型コロナウイルス感染症の影響により減収したこと)を証明して申請する必要があるのだという覚悟が求められます。
結果としてその心構えは、すでに解説したように「不備ループは原則として最初の申請に対して生じる」ことと関係し、受給率を上げる方向に作用します(問題への対策を意識することとなるため)。

不備ループが生じる原因 社会的背景と関連した事務局の経緯

事業復活支援金等は大量の申請を受け付けなければならないため、行政庁も業務委託をして事務局を設置していますが、事前確認が導入された③一時支援金、④月次支援金、⑤事業復活支援金では「デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社」(以下、「デロイトトーマツ社」とする。)が事務局となっています。

以下に、上記社会的背景と関連させて、デロイトトーマツ社が事務局となっている経緯を整理します。

①持続化給付金

持続化給付金は当初、「一般社団法人サービスデザイン推進協議会」が事務局業務を受託していましたが、同法人は「受託費の97%にあたる749億円で電通に再委託した」(下記日経新聞記事より引用)ことが問題となり、途中からデロイトトーマツ社が受託することとなりました。
その概要につき、日本経済新聞電子版「持続化給付金事務局、変更へ 2次補正分はデロイト系」(2020年8月14日)、詳細については経済産業省「持続化給付金事業の執行体制等「~8/31申請受付分等」持続化給付金事務局について」を参照ください。

②家賃支援給付金

家賃支援給付金事務局業務は株式会社リクルートが受託し、デロイトトーマツコンサルティング合同会社、株式会社ベルシステム24、株式会社TMJ、凸版印刷株式会社、株式会社ニューズベースとのコンソーシアム体制(共同体制)で運営され、同支援金の不正受給に関する調査や自主的な返還受付についてはデロイトトーマツコンサルティング会社(デロイトトーマツ社と同系列)が受託しています。
経済産業省「家賃支援給付金事業の執行体制等」参照

つまり、デロイトトーマツ社は、日本の4大監査法人の1つである「有限責任監査法人トーマツ」(世界的に展開する4大会計事務所の中でも最大の会計事務所のメンバーファーム)を母体とするグループ会社であるため(Wikipedia参照)、不正受給を防ぐための審査能力等を活かすかたちで本事業へ入札参加・受託していると考えられます。
一方で、日本の大半を占める「中小零細企業」(支援金の想定する主な対象者)の実態とは異なる「厳しい書類審査」が不備ループに陥るとなされるのは、監査法人が監査対象とするのは大会社であり、そのグループ会社であることからの「考え方の違い」により生じている可能性もあります。

③一時支援金・④月次支援金・⑤事業復活支援金

一時支援金以降は、デロイトトーマツ社が一貫して事務局となっています。
そして、事務局を中心とした実施体制が構築されています。つまり、一時支援金・月次支援金・事業復活支援金はデロイトトーマツ社のみでなく様々な会社が運営に再委託等により参加しており(後述しますがコールセンターと審査部が分離している等一体的な運営となっていないのはそのため)、問題となっている「審査業務」をデロイトトーマツ社からの再委託により行う会社(凸版印刷)もあります。
経済産業省「一時支援金に係る事務局の実施体制について」
経済産業省「事業復活支援金に係る事務局の実施体制について」

問題点の整理

以上の社会的背景・事務局設置の経緯からすると、デロイトトーマツ社以外が事業復活支援金の事務局業務を担うのは困難な状況にあったとも考えられます。
そのことから、事業復活支援金では事務局業務に入札参加したのはデロイトトーマツ社1者のみとなっています。
経済産業省・中小企業庁「事業復活支援金事務事業に関する入札可能性調査の結果について」

また、確かに事務局はデロイトトーマツ社ですが、事業復活支援金を実施し最終的に責任を負うのは経済産業省であり国なのですから、経済産業省は早期に中小企業の実態や不備ループ問題に詳しい顧問を設ける等してより適切な審査基準を事務局と共同して検討し、「改善を強く押し進めること」が求められます(国側は不備ループの問題を一時・月次支援金で「大量の書類提出が求められてきた」ことや「難解な不備通知である」ことまでは理解していても、その審査基準や手続きにどのような問題点があるのかを具体的に理解できていないと考えられます)。
よって、この問題を改善するには社会全体が「不備ループ」を重大な事件として認識し、経済産業省等の対応を変えていくしかありません。

当職も、一時支援金から現在までの事前確認や申請代行、不備ループ対応の経験を通し、変遷していく事務局の審査も踏まえた「審査基準」がみえてきており、実際に事業復活支援金に至っては、事前確認や申請代行で事業に合わせた対策をした上で、当職が問題ないと判断した多くの事業者は100%受給、逆に「不備ループに該当する通知が発せられる可能性がある」とした一部の事業者はやはり不備ループとなり(不備ループになる場合とそうでない場合があり、この点は運要素も残る)、事前に結果の予測がつくようになりました。つまり、不備ループはランダムに発生するのではなく一定の要因があって生じます(ただし審査基準にバラつきあり)。
詳しくは後述し書籍で示しますが、事務局審査基準には「一定の合理性」と「不合理性」が混在しており(不正受給を防ぐ効果は高い反面、給付要件よりも受給範囲を狭めてしまうおそれがある)、最初の審査は「事業内容に基づく帳簿書類等を中心とした全体的な整合性」で判断されていると分析できます(詳しくは後述し書籍で示します)。それを捉えることができたので、「申請者の申請内容を適切に整理し、事務局の審査の負担も減らす」という市民と行政の架け橋としての役目を果たすべく本連載及び書籍の執筆に注力しています。

次回の内容及び書籍案内

次回は不備ループが生じる原因に関する2回目で、事前確認について検討及び解説を行います。

連載6回目(次回)「不備ループ」が生じる原因②-事前確認の問題-

連載4回目(前回)「不備ループ」第3審査の解説

本連載を最初から読みたい方はこちら

本連載内容を整理し、具体的な検討やケースを用いた解説を加筆した上で、申請上の注意点からあるべき審査基準を示す電子書籍については下記記事を参照ください。
事業復活支援金申請の注意点~「不備ループ」に陥らないために~

当事務所の事前確認

当事務所は業として支援金申請を行える行政書士として、これまでの事前確認、申請代行及び不備ループ対応の経験を活かし、事業者に合わせて申請上の注意点までサポートした事前確認を実施しています。
詳しくは下記記事をご参照ください。
事業復活支援金の事前確認

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