2022年4月4日
ビジネス法務エグゼクティブ
(ビジネス実務法務検定1級)
特定行政書士 安平 一樹

本投稿は、事業復活支援金申請をするにあたり注意すべき事項として、「不備ループ」に特化した解説を連載で行い、最終的にはその内容に具体的検討を加筆したものを電子書籍化するためのものです。
書籍出版前に内容の一定割合を公開することは、コロナ禍に困窮する事業者に救済の手が行き渡るようにするためであり、かつ、書籍の執筆・出版が遅延した際にも事業復活支援金の申請に間に合うよう情報提供を可能な限り行うことをねらいとしています。
また、申請期限の関係で火急の執筆となり、誤植があったとしても原則として修正せず書き進めていきますので、より正確な内容を求める方は電子書籍を参照ください。
その目的の詳細は下記記事を参照ください。
【電子書籍の予告】事業復活支援金申請の注意点~不備ループに陥らないために~

さて、事業復活支援金申請は申請手続きに則って申請すれば通常は給付されると考えられますが、一時支援金・月次支援金では不運にもその「通常は」から外れてしまい不備ループに陥り、想像もしなかった過酷な現実に直面することになった事業者が相当数います。

その「不備ループ」につき「報道特集」(TBSテレビ 2021年7月3日放送)でも「一時支援金時点のもの」が取り上げられており、下記YouTubeで再生後6分からその問題が紹介されています。

本連載ではまず不備ループの定義及び仕組みを明確にした上で、不備ループに該当する実際の不備通知を引用しつつ、分析と解説を行います。
これまで不備ループはその経験者からの個別的な報告が情報源となっていましたが、本稿は様々な不備ループに関する情報を具体的かつ体系的に整理して示す初の試みであることに意義があります。
なお、不備ループについては、一時支援金3者・月次支援金11者の不備ループ対応の経験に基づき、月次支援金までの最新情報により検討しています。

1 「不備ループ」とは

事業復活支援金は一時支援金・月次支援金と同様の事務局にて運営されているものですが、その一時支援金・月次支援金では「不備ループ」という現象が生じ問題となりました。
不備ループとは文字どおり、申請に対する不備通知が続き抜け出せなくなることです。つまり、最悪の場合「不給付決定」という結末が待っています。

不備ループが極めて不当な理由の一つとして、同じ業種で同程度の申請内容であっても、不運にも不備ループに該当する不備通知が発せられるとそこから抜け出せなくなり不給付となる一方、最初の申請がそのまま通り給付されることもある点が挙げられます。これは、月次支援金では一時支援金・事業復活支援金と異なり、月毎に申請する方式が採られましたが、同じ事業者がした異なる月の申請結果が「不備ループに陥ったかどうか」により給付・不給付に分かれたことからも明白です。
すなわち、審査基準の問題があります。この点は後に詳しく検討します。

不備ループの形態も一時支援金から月次支援金で変化していますが、月次支援金を最新の状態とすると、「最初の申請で不備ループに陥るかどうか」が運命の分かれ道となります。
つまり、不備ループに該当する通知は、最初の申請に対して発せられ、原則として途中から生じるものではありませんので、「最初の申請が極めて重要」となります。

そのため、当職は事前確認においてその点を重視した対応を行うことにしています。
当事務所の事業復活支援金における事前確認

2 不備ループの定義

では、「不備ループ」とはそもそもどのような不備通知を意味するのでしょうか。一時支援金から月次支援金での変遷も踏まえて定義を検討します。

まず、「通常の不備通知」とは、申請で提出した書類等に不備があり、その不備の修正を求めて通知するものと定義します(通常の不備通知でも合理的な証拠・説明がないと解消できないものもあり、それがなされないと不備通知が続くことになりますが、これは「不備ループ」ではありません)。
次に、「不備ループ」とは、①事業上存在し得ない書類の提出を求め続けるもの(一時支援金で多かった類型)と、②形式的・網羅的に大量の書類提出を求め続けるもの(一時支援金から存在し月次支援金で変化した最新の不備ループ形態)と定義できます。
つまり、通常の不備通知不備ループ①は申請に対して「個別的に発せられる不備通知」で、その個別的な通知内容が、(1)不備修正を求めるものなのか(通常の不備通知)、(2)疑いをかけて審理するものなのか(不備ループに該当し、事務局審査部の誤解によるものも含む)といった違いがあります。
他方で、不備ループ②は最初の申請内容により疑いをかけた事業者に、「形式的・網羅的に作成されたマニュアルどおりの不備通知」を発するものと整理できます。

そして、不備ループのうち①は通常の不備通知と同様に個別的な不備通知であるため、事務局審査部の疑いや判断の誤りを証拠の提出及び論証により解消できる余地がありました。
しかし、不備ループ②は形式的なマニュアルどおりの不備通知であるため、不備通知に対する書類等の不一致・不足は事業形態や実態に合わせた説明や証明では原則として補えず、マニュアルどおりに審査され、不備通知の文言とそれに対する提出書類の不一致・不足を解消できなければ不給付決定となります。
これが月次支援金における不備ループの形態ですので、不備通知どおりの書類が用意できなければ、例え給付要件を満たしていると考えられ、その証明を適切になしたとしても、不備ループは解消できません(その点において、事業者によっては「脱出不可能」なものとなります。)。

よって、当職が対応した不備ループ事案のうち、個別的な不備ループもあった一時支援金では3者中2者の解消に成功したものの、形式的・網羅的な不備通知が発せられた月次支援金では11者中1者しか解消できませんでした(他の10者は不備通知どおりの書類が存在しなかったため)。
なお、一時支援金で不備ループを解消できなかった1者は、月次支援金不備ループの前身にあたる不備内容でした。
守秘義務を遵守した上で、抽象化した具体的なケースを用いた検討は書籍において行うものとします。

以上の解説を踏まえ、次は最新の不備ループ形態である月次支援金の不備通知内容を具体例として引用し、分析及び解説をします。
おそらくほぼすべてのパターンが当職の手元にそろっていると思われますので、重要な記録としての意義も果たせることでしょう。

3 不備ループの提示(引用)、分析及び解説

まず、以下の画像が不備ループと呼ばれるものの、「最初の入口」です。
内容も難解ですが不可解に改行がなく読みづらいので、初めて見た方は非常に驚かれたことと思います。

なお、この改行がない不備通知は一時支援金ではよくあったそうですが、月次支援金では改良されており通常は改行された不備通知が届きます。
当職も月次支援金で2件だけ見た珍しい現象ですので、実際の不備通知のスクリーンショットを引用しました。
また、番号が付されていることから、マニュアル的に不備通知が発せられていることが読み取れるでしょう。
以降ではスマホでも読みやすいよう、スクリーンショットではなく文字で打ち込んで引用します(書籍では事実を保管する意味も含め、実際の不備通知画像を引用する予定です)。

月次不備ループは「3段階審査」

さきほどの不備ループは「最初の入口」と記載したとおり、仮にこの①帳簿書類等の網羅的提出をクリアできたとしても、②他年度における対象月同月の売上に関する複数回の取引の証明、③事業を行っていることの証明に関する不備通知が続きますので、最短でも3回の再申請が必要となります。
このうち、特に厳しい不備通知内容は②他年度における対象月同月の売上に関する複数回の取引の証明で、当職が月次不備ループ対応をした事業者の多くが「対象月同月に複数回の取引がない」として通過できませんでした(一時支援金の不備解消に至らなかった事業者も「1日に複数回の取引があること」の証明という不備通知)。
なお、①帳簿書類等の網羅的提出の不備通知に対する再申請も「1度でクリアすること」を意識して慎重に行わないと、①の派生バージョンである不備ループが続きますので危険であり、さらに事業者によっては抜け出せない落とし穴にはまるおそれもあります。
しかも、この不備通知解消には「本不備通知から2週間以内」という期限が設けられ、例えば①の不備通知に対する書類を2週間以内に準備して再申請しても、①や①の派生に該当する不備通知が再度届くときにはその最初の2週間が延長されないことも多く、期限切れで不給付決定となるリスクがあります。

つまり、大量の書類提出が求められ、それでも抜け出せない不備通知と迫り来る短い期限の中で戦わなければならないのが不備ループ対応の過酷な現実なのです。ただし、期限の点では一時支援金はもっと余裕がありましたので、月次特有の事情(事業復活支援金の開始を控えた状況で、かつ、月毎の申請のため審査件数が多い)もあったと考えられます。

次回の内容及び書籍案内

次回は、月次不備ループ3段階審査のうち、第1審査について実際の不備通知内容を引用しつつ、分析及び解説を行います。
連載2回目(次回)「不備ループ」第1審査の解説

本連載内容を整理し、具体的な検討やケースを用いた解説を加筆した上で、申請上の注意点からあるべき審査基準を示す電子書籍については下記記事を参照ください。
事業復活支援金申請の注意点~「不備ループ」に陥らないために~

なお、当事務所は業として支援金申請を行える行政書士として、これまでの申請代行及び不備ループ対応の経験を活かし、事業者に合わせて申請上の注意点までサポートした事前確認を実施しています。
詳しくは下記記事をご参照ください。
事業復活支援金の事前確認

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