2022年4月11日
ビジネス法務エグゼクティブ
(ビジネス実務法務検定1級)
特定行政書士 安平 一樹

本連載について

本投稿は、事業復活支援金申請をするにあたり注意すべき事項として、「不備ループ」に特化した解説を連載で行い、最終的にはその内容に具体的検討を加筆したものを電子書籍化するためのものです。
書籍出版前に内容の一定割合を公開することは、コロナ禍に困窮する事業者に救済の手が行き渡るようにするためであり、かつ、書籍の執筆・出版が遅延した際にも事業復活支援金の申請に間に合うよう情報提供を可能な限り行うことをねらいとしています。
また、申請期限の関係で火急の執筆となり、誤植があったとしても原則として修正せず書き進めていきますので、より正確な内容を求める方は電子書籍を参照ください。
なお、本連載及び本書は申請者を基準としつつ、登録確認機関や申請代行を業とする行政書士をも対象とした高度な内容まで平易に記述するため、それらを読んだ申請者は、本書等を未読の行政書士や登録確認機関よりも不備ループ対応力が身につくと考えます。

電子書籍の執筆及びその内容を無料公開することの目的につき、詳細は下記記事を参照ください。
【電子書籍の予告】事業復活支援金申請の注意点~不備ループに陥らないために~

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さて、連載3回目は月次支援金の不備ループ3段階審査のうち、第2審査を引用して解説します。
第1審査をクリアした事業者を待つ月次不備ループ最大の関門となります。

月次不備ループ 第2審査の要件

まず、月次不備ループ第2審査では、「2019年・2020年の対象月同月の売上にかかる複数回の取引」の証明が求められます。
この不備通知にもバリエーションがありますが、2019年・2020年の売上にかかる①「対象月同月」(「対象月」とは支援金申請の対象となる売上が減少した月)の②「複数回の取引」を証明するという共通の要件です。すなわち、2019年・2020年とも、対象月同月内に複数回の取引で売上を計上していることが必要となります。

この要件は、2019年・2020年の対象月同月に複数回の取引で売上があることの証明を求めることにより、「継続的かつ確実な事業性を認定する」ことが目的と考えられますが、厳格に適用しすぎると真正な事業者に対し、不給付決定を下すことにつながります。
つまり、この不備ループ通知の最大の問題点は、(1)継続して1者とのみ毎月1件の取引がある事業者や(例:建設業の下請、コンサルティング会社など)、(2)通常は複数の事業者と取引があるものの2019年・2020年の双方またはどちらかの年の対象月同月に1回以下の取引しかなかった事業者(例:2019年に開業し売上が生じるまで期間があった事業者、2020年にコロナ禍の影響を強く受けた事業者など)、(3)現金取引のため対象月同月に複数回の取引があったことの証明が困難な事業者(例:飲食店、エステサロン、各種販売店など)はこの不備を解消できず不給付決定となってしまうことです。
また、取引自体は対象月同月に複数回あったとしても、発行する請求書が月別で1件にまとめられている等の場合に、「複数回の取引がない」として不給付決定となる不合理な事態も生じており、詳しくは書籍で示します。この点は、月次不備ループで当職が最も憤ったところですので、少し書きぶりも熱くなっているかもしれません。

実際の不備ループ通知を引用しながら、順に解説していきます(内容が重複する不備通知は省略)。

月次不備ループ 第2審査の具体的解説

◆複数回の取引の確認(売上:2019年)(FA1620)
2019年の対象月同月の売上にかかる請求書等から、同月に複数回の取引が行われていることが確認できませんでした。
上記が確認できる資料をご提出ください。

◆複数回の取引の確認(売上:2020年)(FA1115)
2020年の対象月同月の売上にかかる請求書等から、同月に複数回の取引が行われていることが確認できませんでした。
上記が確認できる資料をご提出ください。


<解説>
この不備ループ通知を見る限りだと、対象月同月の複数の請求書等を提出すれば不備解消できるように読めますがそうではありません。不備ループ通知には「見えない要件」が隠されているからです。
次の不備ループ通知にそれが表れています。なお、登録確認機関を務める行政書士であれば、それをこの不備通知のみから見抜けたと思います(理由は後述します)。

◆金融機関発行の書類、請求書等、帳簿(売上:2019年)(FB3842)
2019年の対象月同月の売上について、提出された金融機関発行の書類、請求書等、帳簿から、同期間に複数回の取引があることが確認できませんでした。
上記が確認できる書類をご提出ください。
※振込手数料等により差額がある場合、その旨が分かる書類をご提出ください。
※書類を提出される際は、①取引日付、②取引先、③金額が一致することが確認できる箇所にマーカーなどで印をつける、ナンバリングをするなどのうえで、ご提出ください。

◆金融機関発行の書類、請求書等、帳簿(売上:2020年)(FB3943)
2020年の対象月同月の売上について、提出された金融機関発行の書類、請求書等、帳簿から、同期間に複数回の取引があることが確認できませんでした。
上記が確認できる書類をご提出ください。
※振込手数料等により差額がある場合、その旨が分かる書類をご提出ください。
※書類を提出される際は、①取引日付、②取引先、③金額が一致することが確認できる箇所にマーカーなどで印をつける、ナンバリングをするなどのうえで、ご提出ください。


<解説>
対象月同月の売上を証明する資料として、金融機関発行の書類(通帳の写し、ネットバンクのスクリーンショット、取引推移表等。定義は月次不備ループ第1審査の解説参照)、請求書等、帳簿の提出が求められていますが、ここでは、①帳簿に売上が記帳されており、②その売上に該当する請求書等があり、③その請求書等と同一の取引先・金額が通帳等に振り込まれていることの一体的な証明が必要となります。その証明が、対象月同月につき2件以上必要となるわけです。
その事務局の考え方が下記書類(緊急事態措置又はまん延防止等重点措置の影響緩和に係る月次支援金の詳細について(中小企業庁長官官房総務課))47ページに表れています。

なお、一時支援金・月次支援金の事前確認において、登録確認機関は「任意に選んだ1つの法人等(屋号のある個人事業者含む。)との取引につき、2019年・2020年に1件ずつ、請求書又は領収書等に記載の取引先名称及び金額が通帳に記帳されているか」を確認し、それが存在する場合にはその年月を入力することになっていました。よって、登録確認機関を務める行政書士ならば、自ずと上記不備ループに隠された要件を見抜けるわけです。(事業復活支援金でも基準月の帳簿・請求書等・通帳の履歴を確認し、任意に選んだ年月1件を事前確認画面から入力することになっています)。
この点、事業復活支援金の申請では、申請者側が基準月につき帳簿・請求書等・通帳等の写しを関連してアップロードし、登録確認機関も基準月に加え任意の年月1件分につき帳簿・請求書等と一致する振込みが通帳にあるかを確認する手順となっていますが、一時・月次支援金では申請者側にそのような手続きはなく、登録確認機関が事前確認において事業内容に合わせて聴取して案内し、請求書等と一致する通帳への振込みを確認し2件分(2件ないときは1件)を入力できるかにより、事業性の証明力に差が生じ得ました(事前確認では対象月同月につき複数回の取引ではなく、2019~2020年内で任意の年月2件分で事業性を認定でき、これらの方策により不備ループを回避できれば、対象月同月に複数回の取引を証明できなくても支援金は給付されました)。
以下に、月次支援金に関する事前確認マニュアルを引用します。

この請求書等と一致する通帳等への振込みは、すでに述べたとおり、事業復活支援金申請では重要な手続きとして、一時・月次支援金の受給歴や登録確認機関との継続支援関係もなく申請する事業者には求められていることからもわかるように、一時・月次支援金において事前確認段階でこの事業性の認定を受けている場合とそうでないときでは、受給率に差が出たと考えられます(もっとも、あくまでいくつもある考慮要因の一つであり、その点の対処を登録確認機関が行っていても不備ループは生じ得ます。詳しくは後述しますが、不備ループが生じる原因としては申請内容が第一であり、事前確認はその審査を補うものと考えられます。)。
しかも、この請求書等に該当する書面には、原則どおりの請求書・領収書等がない事業形態であっても、それに代替する書類が存在することがあり、事業内容に合わせて当該請求書等に代わる書類がないかを案内し、提出を求めて請求書等及び通帳への振込みの一致を確認し事前確認画面に入力できるかは登録確認機関により異なります。

当事務所が一時支援金において、当職の事前確認を受けた事業者の高い受給率(約98%)及び不備ループ発生率ゼロを維持できた「理由の一つ」がそこにあります(他にも理由は存在しますので後述します)。
一時支援金「受給率98%」及び「不備ループ発生率ゼロ」の根拠

この請求書等と通帳の一致を確認する力量は事業復活支援金の事前確認でも重要ですし、不備ループ対策を意識した確認ができる登録確認機関は希少でしょう。
なお、事業復活支援金の給付額の計算は、対象月、基準月及び基準期間の選択により変わりますが計算式が複雑なため、現時点で当事務所の事前確認を受けた方のうち、2~3者に1者程度の割合で最も給付額が高くなる期間を選べていない事業者がおり、当事務所にて確認計算をして助言しています。
つまり、どの登録確認機関を選択するかにより、「受給率」及び「受給額」は変わり得ます。
もっとも、給付額については支援金HPでシミュレーションできますし(特例申請は除く)、書籍では通帳への振込みと一致する請求書等の解説を具体的な根拠と実例を示して行いますので、当該書籍を読んで必要ならば申請者側で登録確認機関をリードすればよいでしょう。

なお、仮に完全な現金取引である等、帳簿・請求書等と通帳への振込みの一致が確認できない事業者であっても、登録確認機関がその責任において「合理的な理由がある」と認めた場合は事前確認を完了できますし、事業復活支援金申請からは、申請者もその証明資料を書式に則って作成し提出すればよいので、心配しすぎる必要はありません(ただし、後述しますが現金取引の場合、不備ループ発生率が上がることは確かなので、事前確認及び申請時点での対処が重要となります)。

◆複数回の取引の確認(売上:2019年)(FA1116)
2019年の対象月同月の売上にかかる請求書等から、同月に複数回の取引が行われていることが確認できませんでした。
上記が確認できる資料をご提出ください。

※2019年中に開業したことにより、対象月同月の売上にかかる請求書等を提出できない場合には、対象月同月に近く、また売上がある任意の1か月における書類をご提出ください。

◆複数回の取引の確認(売上:2020年)(FA1115)
2020年の対象月同月の売上にかかる請求書等から、同月に複数回の取引が行われていることが確認できませんでした。

上記が確認できる資料をご提出ください。


<解説>
2019年に関しては、対象月同月以降に開業したこと等により、対象月同月の売上にかかる請求書等を提出できない場合に、「対象月同月に近く、売上がある任意の1か月」の売上に関する証明書類を提出することを認める内容となっています。しかし、開業直後から顧客を獲得することは、事業内容により困難なこともあり、「事業が軌道に乗り売上が生じるまでの期間」に売上がない場合、対象月同月に近い月に売上がないと判断され、さらに仮に売上があったとしても、対象月同月に「複数回の取引がない」として不給付決定になるおそれがあります(実際に当職もその実例を経験しており、詳しくは書籍で示します)。
事業内容や単価により、複数回の取引が生じやすいものとそうでないものがありますので、下記の分析で示すとおり、この基準は極めて不当といわざるを得ませんが、事業復活支援金では当該基準は破棄される可能性が高いと考えます(現時点の予測)。

月次不備ループ 第2審査の分析

まず、売上に関し、対象月同月に複数回の取引があることは給付要件ではないと解します。
その根拠や事務局がなぜこの基準を給付要件のように厳格な証明で求めるのかについては書籍で解説します。

そして、書籍内では、月次不備ループ第2審査と当職が戦った書面を守秘義務に反しない範囲(法律論に関する部分)で掲載します。
そこでは、単に当該不備ループの解消を求めるだけでなく、事業復活支援金申請のように後続する支援金が実施されたときに、「二度とこの基準を用いてはならない」ことが事務局に強く伝わることを意識し、法律家として法的主張を全面的に展開しました。
それが功を奏したのかは定かではありませんし、様々な方の事務局や中小企業庁への働きかけの成果だと思いますが、事業復活支援金申請時点では「基準月(対象月同月)につき1件の取引」の証明で足りるようになったことは大きいと考えます。この結果を踏まえると、おそらく事業復活支援金で不備ループが生じても、「対象月同月複数回の基準」は使われないであろうと解します(あくまで現時点での予測)。
よって、上記では「対象月同月・複数回」の解説に力を入れすぎず、事業復活支援金申請との関連性を重視して解説しました。

なお、事業復活支援金においては同支援金に合わせて変形させた不備ループ通知が用いられると考えますが、月次不備ループの分析から「事務局の考え方」を読み取った上で「最初の申請を整えてする」ことで、不備ループ発生率を下げることができます(不備ループとなるかは原則として最初の申請で決まる)。つまり、本連載及び書籍の目的は、脱出困難な不備ループに陥った後の対処法を示すことではなく、不備ループに陥らないようにすることだからです(書籍での不備ループの分析や事例の検討により、結果的に不備ループ後の対応力は上がりますが、それが主目的ではありません)。
詳しくは書籍で示しますが、3段階審査で不備通知の多い月次不備ループは、事務局の考え方・審査基準を理解するための分析材料として最適のものといえるでしょう(もっとも、この資料には、不備ループに苦しんだ結果、不給付決定となった事業者の痛みが実在していることを忘れてはなりません)。

次回の内容及び書籍案内

次回は、月次不備ループ3段階審査の最終章である第3審査について同様に、実際の不備通知内容を引用しつつ分析及び解説を行います。

連載4回目(次回)「不備ループ」第3審査の解説

連載2回目(前回)「不備ループ」第1審査の解説

連載を最初から読みたい方はこちら

本連載内容を整理し、具体的な検討やケースを用いた解説を加筆した上で、申請上の注意点からあるべき審査基準を示す電子書籍については下記記事を参照ください。
事業復活支援金申請の注意点~「不備ループ」に陥らないために~

なお、当事務所は業として支援金申請を行える行政書士として、これまでの申請代行及び不備ループ対応の経験を活かし、事業者に合わせて申請上の注意点までサポートした事前確認を実施しています。
詳しくは下記記事をご参照ください。
事業復活支援金の事前確認

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