2022年4月21日
ビジネス法務エグゼクティブ
(ビジネス実務法務検定1級)
特定行政書士 安平 一樹

本連載について

本投稿は、事業復活支援金申請をするにあたり注意すべき事項として、「不備ループ」に特化した解説を連載で行い、最終的にはその内容に具体的検討を加筆したものを電子書籍化するためのものです。
書籍出版前に内容の一定割合を公開することは、コロナ禍に困窮する事業者に救済の手が行き渡るようにするためであり、かつ、書籍の執筆・出版が遅延した際にも事業復活支援金の申請に間に合うよう情報提供を可能な限り行うことをねらいとしています。
また、申請期限の関係で火急の執筆となり、誤植があったとしても原則として修正せず書き進めていきますので、より正確な内容を求める方は電子書籍を参照ください。
なお、本連載及び本書は申請者を基準としつつ、登録確認機関や申請代行を業とする行政書士をも対象とした高度な内容まで平易に記述するため、それらを読んだ申請者は、本書等を未読の行政書士や登録確認機関よりも不備ループ対応力が身につくと考えます。

電子書籍の執筆及びその内容を無料公開することの目的につき、詳細は下記記事を参照ください。
【電子書籍の予告】事業復活支援金申請の注意点~不備ループに陥らないために~

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さて、連載7回目は不備ループが生じる原因のうち、最重要である「申請内容」とそれに関連して「審査体制」について解説します。

申請内容の問題

これまで解説したように、不備ループに陥るかどうかは原則として「最初の申請内容」で決まります。そして、その最初の申請により「疑わしい申請者か」が事務局審査部により判定され、疑いをかけられると不備ループ通知が発せられるという仕組みです。

そして、すでに述べたとおり、最初の審査は「事業内容に基づく確定申告書・帳簿書類等を中心とした全体的な整合性」で判断していると当職は分析しています。

具体的な申請上のポイント解説は次回(最終回)に譲るとして、本投稿では不備ループが生じる複数の原因のうち、特に重要な確定申告書について解説します。

まず、確定申告書が期限後申告である場合、不備ループとなる確率が格段に上がります。
理由は、支援金の不正受給目的で、架空の事業についての確定申告書を事後に作成し税務署に申告したのではないかという疑いがかかるからです。
そのことから、2019年(令和元年)分の確定申告書から期限後申告で、かつ、持続化給付金やその後の支援金の実施時期に合わせて確定申告している場合は相当高度な疑いがかかると考えられます(毎年確定申告をしていて、申告期限を多少徒過した程度なら心配しすぎる必要はないでしょう)。
これは一時支援金や月次支援金の途中までは、事前確認で事業を行っていたことの確認はできていることの信頼と相まって、必ずしも不備ループ発生の決定打ではなく考慮要因程度の扱いだったように思いますが、月次10月分から格段に厳しくなったと感じています(確定申告書が期限後申告であるものの、一時から月次9月分までは全受給している事業者2者に対し、月次10月分から不備ループが発生していることを確認しています)。

また、同様の理由から、確定申告書が修正申告されている場合、支援金の不正受給目的で売上を操作したのではないかという疑いがかかり、不備ループ発生率が上がります。
ただし、当職の事前確認を受けて事業復活支援金申請をした事業者も、申請時点の注意点を伝えることで修正申告をしていても原則として受給していますので、正当な理由により修正申告をした事業者は心配し過ぎる必要はありません。

さらに、確定申告書の問題に加え「現金取引のみ」の事業形態だとさらに不備ループ発生率は高くなります。
現金取引のみだと売上の記録が通帳等に残らないので、基準月及び基準期間(比べる月・期間)の売上をねつ造した確定申告書(期限後申告又は修正申告)を作成し、対象月に売上が減少したとして、不正な申請をしようとしているのではないかという疑いがかかるからです。
また、確定申告書が期限内申告であっても、現金取引の場合、不備ループ発生率がやや上がると考えられますので申請時点の的確な対処が必要です。

事業復活支援金の最新事例として、「修正申告+現金取引のみの事業者」で、かつ、「修正申告した時期から疑いをかけられやすい事業者」で申請が通った方もいれば、不備ループに該当する通知が届いた事業者もいます(修正申告+現金取引のみであるものの、一時から月次10月分まですべて受給している事業者が、事業復活支援金で初の不備ループとなっていることから、審査がより厳しくなっていることがわかります)。

よって、事案により、最悪の事態も覚悟の上で挑む必要があることも事実です。

上記が最もわかりやすい例だったので紹介しましたが、「税理士が確定申告をしている会社」(当然、期限を守った申告で帳簿書類もそろっている)でも一時・月次支援金において不備ループの発生を複数確認しているので、決して他人事ではありません(ただし、その原因も事務局審査部の考え方に合わせて特定し、最初の申請時点で対処することが可能です)。

そして、不備ループが生じる可能性や対処法を検討するには、上記のとおり、個別具体的な事案に応じて考える必要があります(蓄積した分析結果から導かれる事務局の審査基準に当てはめて考える必要があります)。
そのため、本連載では書籍でしか記せないレベルの内容を無料で公開してきました。個別具体的な事案における問題点を意識し、その上でどう対応し選択するのかの判断材料を提供できればと考えたからです。

なお、付言すると、当職が一時支援金・月次支援金の事前確認を無料で実施し、不備ループ対応を完全成功報酬で対応したのは、まさに「緊急事態」であったからです。
そして、本連載を無料公開することをもって、一時支援金の事前確認から1年以上続くことになったボランティアも最後にしたいと考えています。

審査体制

一般的な行政手続きと異なる理由

まず、事業復活支援金は経済産業省が実施するものですが、その事務局はデロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社(以下、「事務局」とする)が委託を受けて運営しています。
また、支援金申請に対する審査業務は、事務局に加え、凸版印刷も再委託により行っています(事務局の構成に関する詳細は「不備ループが生じる原因①社会的背景」の解説を参照)。

つまり、支援金の実施団体は行政庁であるものの、通常の行政手続きと異なり、審査業務は公務員ではなく民間の会社が行っています。
これは、一時支援金・月次支援金ではその申請には事前確認が必要でしたが、それらを補う地方自治体が実施した支援金では事前確認が不要であったことを挙げれば、通常の行政手続きとの違いがわかりやすいと思います。

そのため、事務局は審査手続のみでなく審査基準や解釈等、審査の体制も通常の行政手続きとは大きく異なります。
たとえば、審査基準や解釈についていえば、上記確定申告書の問題(期限後申告等)についても、行政庁の審査ならば事業を継続して行ってきたこと等を「合理的に立証する資料」を提出すれば、通常は申請が通ると考えます(行政庁は「信用する方向」でそれに足る証拠提出を求めてきます)。
なお、地方自治体が実施した支援金では、確定申告書が期限後申告であることを理由とした不備を当職は確認していません(ただし、一時支援金から月次支援金9月分までは事務局もこの点については寛容でしたので、不正な申請があった結果なのだと推測できます)。

審査手続及び審査体制から考える「あるべき審査」について

次に、審査手続及び審査体制について解説します。

この点、通常の行政庁の手続きとしては、一般的な相談対応を行う窓口を通して、審査権限を有する上席とも交渉することが可能であり、それこそが行政書士が最も力を発揮する場面の一つともいえます。
具体的には、問題となっている事案につき、その論点を明らかにし根拠を示しつつ担当者と交渉することで、「本事案についてはどのように対処すれば申請が通るか」の結論を導き出すことができます(「内諾」を得ると言い換えてもよいです)。
しかし、事務局は相談対応用の窓口と審査部が分かれており、不備ループが生じた場合に窓口に相談しても、窓口担当者が努力して助言はしてくれるものの、審査部がなぜその事業者に不備ループに該当する不備通知を発し、どのような対応をすればそれが解決できるのかがわからないまま再申請をしなければなりません。
相談窓口から審査部へつながる交渉ルートはないということです。

これは、大量の支援金申請を裁かなければならない仕組み上(ゆえに行政庁自身が運営するのではなく民間会社に業務委託した)、相談窓口と審査部の分離はやむを得ない面もありますが、少なくとも審査部が不備ループに該当する不備通知を発した(不正な申請者の疑いをかけた)以上、その理由を具体的に記録して不備通知にも簡潔に明示することに加え、必要に応じて相談窓口からその詳細を確認することができるようにすべきと考えます。
そうすれば、仮に不備ループのように網羅的・形式的な不備通知を発したとしても、その根本の対処となる書類提出を申請者がなし、それが不備通知の文言のすべてを充足しなくても根本的な問題の解決により、不備解消に至るという結論を合理的に導き出せると解します。
具体的には、上記確定申告書の例のように、確定申告書が期限後申告であることから事業の実在につき疑いをかけたのであれば、理由も示さず不備ループを発したりせず、素直に「事業を継続して行ってきたことを証明しなさい」とすべきです。
あえて事務局のマニュアル化された不備ループ後の審査に合わせて問題の解決例を提示するならば、原則として請求書等と一致する通帳への振込みや経費の支払が確認できれば「欠ける期間があっても継続的である限り」事業性を認めるべきであることに加え、現金取引のため通帳での売上・経費の確認ができないときに事業性を認める代替書類を例示列挙して通知し、その提出を認める必要があります(列挙された事項しか認めないという限定列挙ではなく、それ以外も趣旨・目的に合わせて認める例示列挙とすべきです)。

このような審査体制ならば、行政手続きを担う行政書士も支援金申請者に大きく貢献することができるようになるはずです。

登録確認機関専用の相談窓口との違い

一方で、登録確認機関専用の相談窓口は、登録確認機関が行う事前確認への質問に対する判断権限を有します。
そのことから、当職は一時支援金の事前確認に関するある事案2件につき、計4時間程度の交渉時間を要しましたが、当初は事務局も「その事前確認を完了としてはならない」とし、その事前確認を認めれば当職も処罰されるとしていたものを、認めるべき合理的な根拠を示して交渉することで事務局側も「特例中の特例」として、追加対応をすることで当職の責任において事前確認を完了してよいこととなりました(事例については書籍で紹介します)。
このように、判断権限を有する担当者と交渉できるならば、行政書士の腕により結論を合理的な方向へ導くこともできるのです。
なお、その件では通常の事前確認のほかに追加交渉・対応で計6時間程度かかっていますが、事前確認に関するものなので無料で対処せざるを得ませんでした。それでも当職がそこまでした理由は行政書士として、「その事前確認を事務局の指示に従い認めなかった場合、逆に当職が違法に事前確認を完了しなかったことになる」と職責において判断したからです。

審査基準についての補足

さて、すでに述べた各地方自治体が実施した支援金については、その実施規模・給付額の違いもありますが事前確認が不要なだけでなく「不備ループ」も当然生じていません。
これは、許認可・補助金申請等で中小企業の確定申告書・帳簿書類のチェックに慣れており、審査業務経験の蓄積を有する公務員がその裁量により対応したことの結果だと思われ、実際に当職も交渉により書類の不足を補って申請を通しています。
この点については、行政庁と事務局の審査基準の明確な違いがわかる事例がありますので、詳しくは書籍で紹介します。

いよいよ本連載も次回で最終回となります。

次回の内容及び書籍案内

次回は、事業復活支援金申請で注意すべきことのポイント解説を行います。

連載8回目(次回)「不備ループ」に陥らないためにできること(最終回)

連載6回目(前回)「不備ループ」が生じる原因②事前確認の問題

本連載内容を整理し、具体的な検討やケースを用いた解説を加筆した上で、申請上の注意点からあるべき審査基準を示す電子書籍については下記記事を参照ください。
事業復活支援金申請の注意点~「不備ループ」に陥らないために~

当事務所の事前確認

当事務所は業として支援金申請を行える行政書士として、これまでの事前確認、申請代行及び不備ループ対応の経験を活かし、事業者に合わせて申請上の注意点までサポートした事前確認を実施しています。
詳しくは下記記事をご参照ください。
事業復活支援金の事前確認

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