ビジネス法務エグゼクティブ
(ビジネス実務法務検定1級)
特定行政書士 安平 一樹
本連載について
本投稿は、事業復活支援金申請をするにあたり注意すべき事項として、「不備ループ」に特化した解説を連載で行い、最終的にはその内容に具体的検討を加筆したものを電子書籍化するためのものです。
書籍出版前に内容の一定割合を公開することは、コロナ禍に困窮する事業者に救済の手が行き渡るようにするためであり、かつ、書籍の執筆・出版が遅延した際にも事業復活支援金の申請に間に合うよう情報提供を可能な限り行うことをねらいとしています。
また、申請期限の関係で火急の執筆となり、誤植があったとしても原則として修正せず書き進めていきますので、より正確な内容を求める方は電子書籍を参照ください。
なお、本連載及び本書は申請者を基準としつつ、登録確認機関や申請代行を業とする行政書士をも対象とした高度な内容まで平易に記述するため、それらを読んだ申請者は、本書等を未読の行政書士や登録確認機関よりも不備ループ対応力が身につくと考えます。
電子書籍の執筆及びその内容を無料公開することの目的につき、詳細は下記記事を参照ください。
【電子書籍の予告】事業復活支援金申請の注意点~不備ループに陥らないために~
さて、連載4回目は月次支援金の不備ループ3段階審査の最終章、第3審査を引用して解説します。
月次不備ループ 第3審査の概要
まず、月次不備ループ第3審査については、これまでの第1・第2審査と傾向が異なります。
第1審査では大量の帳簿書類等を提出させることで事業性を確かめ、第2審査では売上に関し対象月同月に複数回の取引があるかを確認することで、さらに事業性について強固なチェックをするという構成でした。
第3審査はもっと実態的な審査である一方、第1・第2審査のような厳しさはありません。
つまり、これまでに説明したように、「不備ループ」は最初の申請に対して疑いをかけられた事業者が陥るものですが、第1・第2審査を通過した者はその疑いの程度が軽減されており、「給付まであと一歩」まで来たと考えてよいです。
よって、月次不備ループにおいては、多くの事業者が第3審査の不備ループ通知を見ることなく第1・第2審査で不給付決定となってしまう過酷な現実があった一方で、第3審査は実質的な審査であるため、第1・第2審査を突破した「真正な事業者」が落ちることは基本的にはないと考えられます(事業を行っていない架空の事業者に対しては第3審査も壁となります)。ここで重要なことは、第3審査では第1・第2審査よりも「疑いの程度が軽い」ということで、それが審査基準に影響していることが挙げられます。
月次不備ループ第3審査の解説
実際の不備ループ通知を引用して解説をします。
A.「①商品・サービスの一覧表、②店舗写真、③賃貸借契約書又は登記簿」の3点
B.「許認可書」
※賃貸借契約書は2019年1月から直近までを契約期間に含むものをご提出ください。
登記簿は発行から3か月以内のものをご提出ください。
※運転免許証、開業届は許認可書とはなりませんのでご注意ください。
2.「取引先情報」の「対象月における対象措置影響の種別」で選択した区分にそった、「緊急事態措置又はまん延防止等重点措置の影響緩和に係る月次支援金の詳細について」の「3.保存書類(P.9~10)」に記載された保存書類一式
※保存書類の詳細については
・「緊急事態措置又はまん延防止等重点措置の影響を証明する書類」(URL略)
・「緊急事態措置又はまん延防止等重点措置の影響緩和に係る月次支援金の詳細について」(URL略)
・「月次支援金の給付対象・保存書類早わかりガイド」(URL略)
をご確認ください。
なお、以下の帳簿書類については、改めてご提出いただく必要はございません。
①売上および経費の支払が確認できる金融機関発行の書類
②売上および経費が確認できる帳簿
③売上が確認できる請求書、領収書等
※①~③は「月次支援金の給付対象・保存書類早わかりガイド」の「1:自らの販売・提供先との反復継続した取引または消費者との継続した取引を示す帳簿書類および通帳」に相当します。
<解説>
まず、提出を求める内容が(1)「①商品・サービスの一覧表、②店舗写真、③賃貸借契約書又は登記簿の3点」または「許認可書」となっており、実際の事業に即しています。これは、事業者の中には帳簿書類等を細部まで正確に作成できていない者も多い現状がある中で、事業についてはサービスに関することなので適切に行っているのが通常で、事業者の実態に沿った適切な審査基準といえます。
次に、(2)は月次時点の「事業区分」に沿った考え方なので詳細は割愛しますが、事業区分(緊急事態措置・まん延防止等重点措置の影響を受けた事業)に合わせて証拠書類の存在を検討しています。
なお、事業復活支援金は緊急事態宣言等の制限なく新型コロナウイルス感染症の影響を受けた事業者を対象としますが、「事業区分から新型コロナウイルスの影響をどのように受けたのか」を審査する方法は、事業復活支援金にも改良されたかたちで引き継がれていると考えます。詳しくは後述するとともに書籍で示します。
事業を営んでいることを確認する資料として、「①商品・サービスの一覧表、②店舗写真(外観でも内観でも可)、③賃貸借契約書または登記簿(全部事項証明書も可)」の3つか、「事業を営んでいることが分かる許認可書」のいずれかをご提出ください。
※賃貸借契約書は、契約期間が2019年1月から現時点までにおいて有効であるものをすべてご提出ください。
※登記簿は、発行から3か月以内のものをご提出ください。
なお、事業用の賃貸借契約書の提出が難しい場合は、以下を確認のうえ、書類をご提出ください。
(例1)住居用の建物で事業を営んでいる場合
賃貸借契約書に加えて、2019年・2020年の収支内訳書(両面)または青色申告決算書(全ページ)をご提出ください。
(例2)レンタルスペースで事業を営んでいる場合
2019年・2020年の施設利用にかかる領収書【すべて】と、2019年・2020年の収支内訳書(両面)または青色申告決算書(全ページ)をご提出ください。
(例3)車両のみを用いて事業を営んでいる場合
①駐車場にかかる契約書、②契約料を支払った際の領収書、③駐車している車の車検証、④駐車している車のナンバープレートが写った写真をご提出ください。自宅の駐車場を利用している場合は、③、④のみをご提出ください。
<解説>
最初の第3審査不備ループ通知に対して提出した書類が、事務局審査部の考える要件を充足しなかったため発せられた不備ループ通知ですので、要件がわかりやすく整理されています。
また、「疑いの程度が軽減している」ことがわかる内容として、「(例1)居住用の建物で事業を営んでいる場合」に補填して提出する資料が示されていることが挙げられます。第1審査では「賃貸借契約書(自宅兼用は不可)」となっていましたが取扱いが大きく異なります。さらに、「(例2)レンタルスペースで事業を営んでいる場合」や「(例3)車両のみを用いて事業を営んでいる場合(自宅の駐車場を事業用にも利用する場合に配慮された内容)」と具体例があり、「事業用ビルに営業所を構えている」事業者のみが事業主なのではなく、様々な事業形態がある中小企業の実態に配慮がなされています。
そして、あくまで例なので、これに限定されず事業形態に合わせて「解釈で補うことを認める記載」となっています。
月次不備ループ第3審査の分析
この第3審査基準は「妥当」と評価できます。
これまで、第1審査・第2審査の不当性を明らかにしてきましたが、第3審査は事業者の実態に即しており正当です。
仮に事務局が設定した3段階審査をそのまま維持するとして、月次支援金時点でどのような審査基準をとるべきだったのかの概要を示すならば、まずこの第3審査を第1審査にすべきであったと考えます。
具体的には、最初は事業者の実態に即して「架空の事業者ではないか」・「事業を行っている者か」を実質的に審査し、その後、詳しい帳簿書類等の提出を求めたのであれば、初回の審査で事業主としての実在が証明されている以上、疑いは軽減され、それ以降の審査にも帳簿書類等の不足を補う解釈や証明資料の提出を認める余地が生じます。つまり、申請者の事業内容・実態に合わせた柔軟な審査が可能となるということです。
事業復活支援金における審査基準においても、①まず事業の実在を審査し、②実在が確認された事業内容・実態に即して審査する(マニュアル的な不備通知との完全な一致を求めるのではなく、当該不備通知の趣旨を満たす程度に合理的な証明も認める方向で解釈する)ことが求められます。
この点は非常に重要なことですので、一般公開の場で提示することにしました。
ただし、残念なことに現時点において、事業復活支援金版の不備ループと思われる内容はやはり帳簿書類等の提出から入っており、月次不備ループと同じことが繰り返されるのではないかという懸念があります。
なお、事業復活支援金においては同支援金に合わせて変形させた不備ループ通知が用いられると考えますが、月次不備ループの分析から「事務局の考え方」を読み取った上で「最初の申請を整えてする」ことで、不備ループ発生率を下げることができます(不備ループ通知は最初の申請に対して発せられることによる)。つまり、本連載及び書籍の目的は、脱出困難な不備ループに陥った後の対処法を示すことではなく、不備ループに陥らないようにすることだからです(書籍での不備ループの分析や事例の検討により、結果的に不備ループ後の対応力は上がりますが、それが主目的ではありません)。
詳しくは書籍で示しますが、3段階審査で不備通知の多い月次不備ループは、事務局の考え方・審査基準を理解するための分析材料として最適のものといえるでしょう(もっとも、この資料には、不備ループに苦しんだ結果、不給付決定となった事業者の痛みが実在していることを忘れてはなりません)。
次回の内容及び書籍案内
次回からは、不備ループが生じる複数の原因について検討及び解説を行います。
原因を把握して初めて適切な申請ができると考えられるからです。
連載5回目(次回)「不備ループ」が生じる原因①-社会的背景-
本連載内容を整理し、具体的な検討やケースを用いた解説を加筆した上で、申請上の注意点からあるべき審査基準を示す電子書籍については下記記事を参照ください。
事業復活支援金申請の注意点~「不備ループ」に陥らないために~
当事務所の事前確認
当事務所は業として支援金申請を行える行政書士として、これまでの事前確認、申請代行及び不備ループ対応の経験を活かし、事業者に合わせて申請上の注意点までサポートした事前確認を実施しています。
詳しくは下記記事をご参照ください。
事業復活支援金の事前確認